「面白いスタッツがあります」日本代表をスペイン人指導者が考察。欧州で高く評価される気が利いたプレーの正体
日本代表はFIFAワールドカップ26アジア2次予選で連勝スタートを切り、国際Aマッチにおける連勝を8に伸ばしている。日本代表が結果を残し続けている要因はどこにあるのか。スペイン人指導者のアレックス・ラレアが日本代表を分析する。(取材・文:川原宏樹)
●守備が粗かったシリア代表とミャンマー代表 11月からFIFAワールドカップ26アジア2次予選が始まった。ミャンマー代表、シリア代表と戦った日本代表はいずれの試合も5得点を挙げて快勝。これまで苦手としてきたゴール前に引いてブロックを敷くという守備的な戦術で挑んでくる相手に大量得点できっちり勝ち点3を稼ぎ、好調ぶりを見せてくれた。 UEFA PROライセンスを持ち『DV7サッカーアカデミー』でディレクター・コーチを務めるアレックス・ラレアは、これまでとは少し異なるアジア勢との戦いをどのように評価したのだろうか。 ミャンマーもシリアも以上に守備を固めた戦術で、日本からの失点をできるだけ少なく抑えようと試みてきたが、アレックスはどちらのチームも守備のクオリティは高くなかったと評価する。 「日本代表が引いてブロックを敷いてくるチームに苦戦する。2試合ともそういう想定があったかもしれませんが、ミャンマー代表もシリア代表もそこまでクオリティは高くありませんでした。ミャンマーはそれぞれのプレーも質が低く、固めたブロックも粗いものでした。シリアも同じようにブロックを敷いてきましたが、完璧なディフェンスからはほど遠く隙や歪みが生じていました。そういった相手の守備に関するクオリティを考慮すると、日本にとっては簡単な試合となり5-0という結果は当然だったように思います」 格下相手というある意味で難しい試合においても、日本代表の選手たちは高いモチベーションで臨んでいたとアレックスは評価する。 ●森保一監督がつくりあげた原理 「日本代表選手の背景を考慮するとモチベーションを上げにくく、ひとえに簡単なゲームとは言い難い状況でしたが、実際のゲームではどの選手もモチベーションを高く保って試合に臨めていたように見えました」 各々が高いモチベーションで臨めた大きな要因の1つには、森保一監督がつくりあげた状況が関係しているとアレックスは分析する。 「現在の日本代表はチーム内に競争の原理が働いています。レギュラー争いにおいて、どのポジションにおいても絶対的な存在は1人としていないでしょう。そういった現状から各々の選手には競争意識が芽生え、しっかりとしたパフォーマンスを見せなければならないというマインドになっているように思います。このようにチーム内の競争力を高くすることで、日本代表の選手たちが高いモチベーションを保てるような環境を森保監督はつくり出しています」 モチベーションのベクトルをチーム内に向けるという采配で、日本は格下相手にもいいパフォーマンスを見せられたと評価していた。 高いモチベーションによっていずれの試合も5得点を挙げて快勝した日本代表だが、大量得点を奪った攻撃面よりも守備面のほうが光ったとアレックスはいう。 「すべてのプレースピードが速くなっている日本ですが、特にボールを奪われたあとの切り替え、ネガティブトランジションの素早さが目立っていました。ボールロストと同時にすべての選手が切り替えられており、正しいアクションを行えていました」 加えて、センターバックやボランチがしっかりと危機管理を行えていたと称賛した。 ●気が利いたプレーと危機管理能力 「前線へボールを運びチームの重心が前がかりになるなか、谷口彰悟や冨安健洋らのセンターバックは常にボールを奪われたときの対応を考えながらポジショニングしていました。実際にボールを奪われてロングボールを蹴り込まれるような場面もありましたが、落下点にはすでに彼らがいてボールを回収できるように守れていました。さらに、遠藤航、守田英正、田中碧らのボランチは前線に絡み攻撃参加しつつも危機管理を忘れておらず、ポジショニングを修正しつつセカンドボールを奪いやすいようにプレーしていました」 このように勝因には“ネガティブトランジション”と“危機管理能力”を挙げ、相手に決定機を与えなかった日本の守備を絶賛した。 さらに、ファウル数をピックアップして守備面における日本の成長した点を説明した。 「日本の守備を考察するうえで、おもしろいスタッツが1つあります。シリア戦におけるファウル数は、日本が10でシリアが8でした。あれだけ日本が攻めていたにもかかわらず、日本のほうがファウルが多かったのです。 それは日本の選手らがボールロスト後に素早くファウルして、相手の攻撃を未然に防いでいることを示しています。守備の組織を整えたときには、ある程度の自信があるのだと思います。それを整える時間をファウルでプレーを止めることによってつくり出していました。ボールを失うというミスが深刻化する前に防ごうという意思がチーム全体から感じられ、奪われた本人ではなくてもファウルで止めて時間をつくろうというプレーが見られました。 ファウルで止めるのは1つの手段なのですが、総じていえばボールを奪われたシチュエーションに対して、日本の選手は全員が集中力のある対応ができており、気が利いたプレーができていました。そのことがファウル数となって表れたのだと思います」 このような戦術的なファウルは、ヨーロッパのサッカーシーンでは高く評価されることがある。そういったプレーがなぜ必要で高評価を得るのかを詳しく解説してくれた。 ●欧州で重宝される「判断できる選手」 「今の日本代表は攻撃的で、両サイドバックが高い位置を取って前線に人数をかけて展開していきます。さらに、横幅をいっぱいに使ったポジショニングで相手の守備網を大きく広げようと試みます。こういった攻撃時には最終ラインと中盤のラインが縦に広がりますし、選手間の横の距離も開いてしまいます。 この状態でボールを奪われると、相手に広大なスペースを与えることになるのです。この広がった状態から選手間の距離が近づく閉じた状態に整えて守備をするのが定石になります。そのため、ボールロストの瞬間にどうアプローチするのかというはチームとって重要なアクションになるのです。 組織化された守備陣形を整えるのに時間が足りないと判断すれば、ファウルでプレーを止めるという判断はチームのためになります。実際に、前がかりになるバルセロナやレアル・ソシエダなどでは、そういった判断とプレーができる選手を評価して重宝しています」 そういった守備面での戦術的な判断の質が向上したのは、ヨーロッパのトップレベルでプレーする選手が増えたことが要因だろうと、アレックスは付け加えている。 続いて、攻撃についても高く評価して日本が成長している点について解説してくれたアレックス。その話は次回としたい。 (取材・文:川原宏樹)
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