部屋に閉じ込め、水道も止め…高齢者施設で虐待が相次ぐ背景に、現場を無視した“利益優先主義”「忙しさのあまり介護士の感覚も麻痺し、無意識に虐待を行っている」
“利益優先”―事業者側の都合が虐待を生む
この事件を業界ではどう受け止めているのか。前出の元介護職の男性は、「許せない」と憤っていたが、同時にこう話した。 「残念ですが、こんな施設は他にも結構たくさんあると思います。処分内容は他の問題施設と比較しても平均的なものでしょう。そもそもサ高住は要介護度が低めの方が入居するための施設です。比較的、介護に手がかからない利用者が入居するため、経営側も最小限の介護士で回そうとし、虐待を生む要因となっている」 一方、サ高住には要介護度の高い人の入居も増えているという。 「中には重度の認知症を患っている方や、介護職員に暴言や暴力を振るうような、いわゆる〝手のかかる〟利用者もいる。経営者は空室を埋めたいため、要介護度の高さを無視して利益優先で入居させてしまうのです。手のかからない入居者が暮らすはずのサ高住が、実態は正反対というケースも多い」(同前) そうなると当然、現場の介護士の手が足りなくなる。東村山のサ高住のケースでも、夜中に勝手に徘徊してしまう利用者がいると、他の利用者の介護が手薄になるため、部屋の中に閉じ込めておこうとしたのではないか。 「頻尿の方が水を大量に飲めば、おむつ交換の頻度も増えます。水を飲ませなければ、おむつ交換の回数を減らせるという発想から、水道の元栓を閉めたのかもしれません。こうした行為は明らかな虐待で決して許されることではない。しかし現実には、忙しさのあまり介護士の感覚も麻痺していき、自分でも意識しないまま虐待行為を行ってしまうという話はよく聞きます」(同前) 以前取材した関西の社会福祉法人で働く介護士の丸山良子さん(仮名)は、介護施設で起こる虐待についてこう話す。 「以前勤めていた職場でも虐待はありました。入浴介助の際、認知症の方や、クレームを言えないような方に、一枚のタオルを3人で使いまわしていたんです。順番が後の方は、濡れたタオルで身体を拭かれるので、冷たがっていました。バスマットを交換する回数も減らしていたので、後から使用する方は足元が冷たい」 虐待には暴力などの身体的なものだけでなく、心理的・経済的なものまで含まれ、その程度もさまざまだ。こうしたタオルの使いまわしも明らかな虐待といえる。 「施設では総責任者が度々現場を見回って、無駄がないかチェックしていました。備品を使い過ぎだとか、何か気に食わないことがあると職員に怒鳴り散らし、『明日から、もう来なくていいから』と脅す。タオルの使いまわしも、こうした経営側の過剰な経費削減が原因で行われていました。不思議なことに、スタッフも次第に感覚が麻痺していく。これは虐待ではないかと疑問に思わなくなっていくんです」(同前) 文/甚野博則 写真/PhotoAC
---------- 甚野博則(じんの ひろのり) 1973年生まれ。大学卒業後、大手電機メーカーや出版社などを経て2006年から「週刊文春」記者に。「『甘利明大臣事務所に賄賂1200万円を渡した』実名告発」などの記事で「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞」のスクープ賞を2度受賞。現在はフリーランスのノンフィクションライターとして、週刊誌や月刊誌などで社会ニュースやルポルタージュなどの記事を執筆。本書が初の単書となる。介護に関する情報提供はぜひ(hironori jinno2@gmail.com)までお寄せください。 ----------
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