１年前、同じ大会でプレーオフで敗れた悔しさを晴らし、両手をあげて喜びを爆発させた桑木志帆

今年で５回目を迎えた資生堂レディスオープンは２日目、６月28日の雨天中止により、３日間54ホールの短縮競技となったが、昨年この大会でプレーオフで敗れた桑木志帆（21）が通算11アンダーでツアー初優勝を飾った。 【画像】美しすぎる…前夜祭に参加した原英莉花、脇元華ら「ドレスアップした女子プロ選手」可憐な姿 「昨年の“忘れ物”を取りに来たということで、取りに来れて本当に良かったです」 １年前の悔しさを晴らし、そぼ降る小雨が桑木のほおを伝う涙を流した。 前回大会でも優勝争いをしたが、プレーオフで敗北。それだけに今大会に対する思いは他の大会以上に強かった。 予選ラウンド前日の６月26日、プロアマ戦での時から桑木は優勝を引き寄せる“見えない力”を感じていた。初V後、桑木は優勝会見でこう語っていた。 「（私と一緒に回った）ゲストの方が日向子ちゃん（渋野日向子）とプロアマ戦を回ったことがあって、その時も（渋野についた）キャディーは門田実さんだったそうですが、その年（’19年）に（渋野が）優勝して……」 今回、桑木についたキャディーも門田氏だった。６月30日の最終日、１打リードで迎えた最終18番の第２打をグリーン左のラフに外した。 「（渋野が）優勝した時も同じような状況だったらしく、最後アプローチした所も日向子ちゃんもそこに外したみたいで……。（門田氏から）『全く同じ状況だね』と話しながらやっていました」 焦ることなく打ったアプローチは、ピンそば１ｍまで寄り、初優勝を決定づけた。 桑木は渋野と同じ岡山県出身。父・正利さんの影響で４歳からゴルフを始めた。４学年違う渋野はジュニアやアマチュア選手権の会場で挨拶を交わし、優しい言葉をかけてくれた憧れのお姉さん的存在だった。渋野が岡山県作陽高校１年のときに「中国女子アマチュアゴルフ選手権」（’14年）で優勝すると、同大会（’17年、’18年）で中学３年、高校１年と連覇したのが桑木だった。頻繁に連絡を取り合うわけではないが、桑木は常に背中を追ってきた。 先にプロとなった渋野は資生堂オープンの初代女王に輝いた約１ヵ月後、「全英女子オープン」（’19年）で海外メジャー初参戦で初優勝の歴史的快挙を成し遂げた。テレビ観戦をしていた桑木は「すごいことやった！」と興奮気味に叫んだという。父・正利さんは本誌の取材にこう明かした。 「口には出さなかったけど、“自分にもできる”、“海外でプレーしたい”みたいな気持ちはその時芽生えていたのだと思います」 秘めた思いが今季を迎える前のオフのトレーニングに表れていた。 「将来、アメリカに行きたいという気持ちがあって、経験してみないとどんなものか分からないので」と桑木はシーズン前にアメリカ合宿を敢行。新コーチにプロゴルファーでもある中村修氏、東京五輪でトレーナーとして帯同した理学療法士の小楠和寿氏と３人で渡米した。 「トレーナーさんも帯同してたので、トレーニングを結構やって、何か持ち球を変えたというのはなく、自分の持ってるものに磨きをかけました」 初優勝を飾ると、６月29日にアメリカ女子ゴルフツアーでホールインワンを達成して話題になった渋野から、桑木のインスタグラムに思いがけないダイレクトメッセージ（DM）が届いていた。 〈おめでとう、よく頑張った！〉 なれなれしく話せる関係ではない分、静かに大きな背中を追ってきた同郷の先輩が気にかけてくれていたことが何よりもうれしかった。 「（DMは）やっぱりとっても嬉しかったです。アメリカって自由だなと思っていて、私も自由なほうが好きなので、（いつかは）行きたいなと」 勝つ喜びを知った桑木が、大先輩の背中を追って米ツアーに挑戦する日はそう遠くないかもしれない。 取材・文・PHOTO：戸加里真司