官房副長官も秘書官も「葛西のお気に入り官僚」…「一介の企業経営者」に過ぎない葛西が官邸人事にまで影響力を持つ衝撃の理由
官邸にちらつく実力者の影
第二次安倍政権から岸田政権発足にいたるまで、官邸の主要人事には、常にJR東海の葛西敬之と元警察官僚の杉田和博という実力者の影がちらついてきた。一介の企業経営者にすぎない葛西が、そこまで影響力を行使できたのはなぜか。さかのぼれば、その理由はやはり国鉄民営化前後のJR各社の動きを抜きに語れない。 JR東日本社長の住田正二や常務の松田昌士は旧動労ならびに革マル派対策において融和策をとり、JR東海社長の須田寛や常務の葛西敬之は徹底的に彼らを排除したと伝えられる。結果、マスコミのあいだでも、JR東日本は革マル派となれ合い、JR東海は対決した、という流れが定説になっている。そこについて、JR東海の元役員はこう説明してくれた。 「民営化後、松崎(明)はある意味の判断ミスを犯したのだと思います。JR総連を結成したら、東海から西側の労働組合が反発してJR連合が生まれ、鉄労中心の組合になっちゃったわけですから。だから、残る東だけは自分たちの勢力を死守しなければならない、と松崎はJR東日本を組合活動の金城湯池に位置付けた。それで、あの手この手を使って松田さんに圧力をかけ、あのように入り込んだんだとわれわれは考えています」
JR東日本と革マルの関係
先に、松田は同居している孫が近所のプールで指導員にいやがらせをされた件を革マル派の仕業だと考え、松崎たちに籠絡されたのではないか、と書いた。しかし実のところ、JR東日本の松田が松崎の脅しに屈したという事実は判然としない。そこについて亡き松田に近いJR東日本の元役員に聞くと、きっぱり否定する。 「松田さんは国労と対峙してきた労務のプロで、プールの件はあくまで国労の嫌がらせを意識して日経新聞の『私の履歴書』に書いたのです。革マルと結び付けられるのは心外だと思います」 さらに次のように付け加えた。 「なにより松田さんは、民営化前後に松崎と手を結んできた葛西さんのやり方にずっと懐疑的でした。葛西さんが脅された慶大の医学部教授夫人の件についても、もっと根が深い。実は松崎は彼女のことをよく知っているのです。松崎本人が民営化前に葛西さんから彼女のことを紹介されたと聞きました。だからこそ、松崎たちはあのようにネタをつかんで脅しをかけることができたんだ、と松田さんが話していました」 革マル派の副議長だった松崎が自ら委員長を務めるJR東労組を根城にし、JR総連という全国組織をつくって勢力を拡大していった事実には疑いがない。そこに対し、松田が手を打とうとしてきたのもたしかだ。そのために民営化と同時に警察官僚の柴田善憲をJR東日本に招聘した。この柴田という公安警察の重鎮をどう見るか。JR東日本と革マルとの距離をはかる上で、そこがまず重要なポイントになる。
森 功(ジャーナリスト)