「僕は人の笑顔を栄養にして生きている」戸田奈津子が京都旅行をともにした、いまは亡きロビン・ウィリアムスとの思い出
長場雄が描く戸田奈津子が愛した映画人 vol.35 ロビン・ウィリアムズ
字幕翻訳の第一人者・戸田奈津子さんは、学生時代から熱心に劇場通いをしてきた生粋の映画好き。彼女が愛してきたスターや監督の見るべき1本を、長場雄さんの作品付きで紹介する。
今でも亡くなったことが信じられない
映画のプロモーションでロビンが来日するたびに、一緒に京都旅行へずいぶん行きましたし、家族ぐるみでとても仲良くさせてもらいました。お寺でお坊さんがお経をあげる姿を見て咄嗟にモノマネをしたり、当意即妙で本当に人を笑わせる天才なの。 「吸血鬼は血を吸って生きるけど、僕は人の笑顔を栄養にして生きているんだよ」というのが彼の口癖。記者会見なんて入場料を取るべきだと思ったくらい、サービス精神旺盛な生まれながらのエンターテイナーでした。 実際の人柄の通り、演じる役もほとんど悪役ってないのよね。『ミセス・ダウト』(1993)みたいな楽しい役もやったし、『いまを生きる』(1989)や『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』(1997)みたいな学生を教え導く教師役も、教訓めいていないところが彼にピッタリでした。 なかでも私が好きな1本は、テリー・ギリアム監督の『フィッシャー・キング』(1991)。ひと言では表現できない毛色の変わった不思議な映画でしたね。ロビン演じるパリーとジェフ・ブリッジス演じるジャックがセントラルパークですっぽんぽんになり、寝転がって歌を歌うシーンは忘れられません。背景にあるテーマはシリアスだけど、同時に秀逸な喜劇でもある。独特の世界観がギリアム監督ならではでした。 ロビンが2014年に亡くなってからもう10年。当時、彼の友人たちがサンフランシスコの劇場に集まって追悼会をしたのですが、私も参加させてもらいました。 いろんな人が追悼文を発表したのですが、なかでもギリアム監督の追悼文が涙をそそりました。今も亡くなったことは信じられないけれど、本当に誰からも愛される天才俳優でした。
『フィッシャー・キング』(1991)The Fisher King 上映時間:2時間17分/アメリカ
過激なトークで人気を集めるラジオDJのジャック(ジェフ・ブリッジス)。ある日、放送中の発言がきっかけで銃乱射事件が起こり、仕事も名声もすべてを失ってしまう。 3年後、暴漢に襲われたジャックは路上生活者のパリー(ロビン・ウィリアムズ)に助けられる。パリーが3年前の事件で妻を亡くしたことを知ったジャックは、彼の助けになろうと決意。ふたりは奇妙な友情で結ばれていく。 テリー・ギリアム監督作。ロビン・ウィリアムズはゴールデン・グローブ主演男優賞を受賞した。