「この道を憎んでいる」 遊牧民の老人が見た内蒙古の国道建設が招いた悲劇
日本の3倍という広大な面積を占める内モンゴル自治区。同じモンゴル民族のモンゴル国は独立国家ですが、内モンゴル自治区は中国の統治下に置かれています。近年目覚ましい経済発展を遂げた一方で、遊牧民の生活や独自の文化、風土が失われてきました。 内モンゴル出身で日本在住の写真家、アラタンホヤガさんはそうした故郷の姿を記録するためシャッターを切り続けています。アラタンホヤガさんの写真と文章で紹介していきます。 ----------
シリンホト市から河北省張家口をつなぐ国道207号線は、この地域の交通動脈である。 近年、この国道が通じて、シリンホト市から200キロぐらい離れたシローンフフ・ホショーに建設された中国最大級の火力発電所である上都火力発電所に石炭をトラックで運送している。 この国道207号線でもいろいろな問題が起きている。2011年夏、バトバヤルという60歳後半の老人と出会った。彼は国道207号線沿いで、40 年以上遊牧生活をしてきたベテランの遊牧民だ。 「この国道により、確かに生活は以前より、随分、豊かで、便利になりました」。「しかし、この国道で、我々の故郷の草原や山々が壊されました。そして、家畜や地元の人々まで交通事故に遭うため、私はこの道を憎んでいます」と老人は怒りをこめて話した。
国道を建設する際、道路沿いに生活している住民には何の説明もなかった。突然、彼らの牧草地に大型トラックやショベルカーが入り、土を掘り起こし、山々を削り、建設用の土や石を運び出した。 何回か述べているが、この地域は雨量が少なく、乾燥しているため、わずか10センチ前後の薄い網目を張り巡らしたような草の根のネットによって、草原が維持されている。それがはがされてしまうと二度と草は育たなくなり、春になると北風で、草がなくなり土がむきだしになった所の砂が吹き飛ばされて、砂嵐が発生する。 さらに、悪い連鎖として、その砂が周辺に残る草原を覆うことで、その草も枯れてしまう。このように、草原が衰退し、砂漠化が加速している。(つづく) ※この記事はTHE PAGEの写真家・アラタンホヤガさんの「【写真特集】故郷内モンゴル 消えゆく遊牧文化を撮るーアラタンホヤガ第6回」の一部を抜粋しました。
---------- アラタンホヤガ(ALATENGHUYIGA) 1977年 内モンゴル生まれ 2001年 来日 2013年 日本写真芸術専門学校卒業 国内では『草原に生きるー内モンゴル・遊牧民の今日』、『遊牧民の肖像』と題した個展や写真雑誌で活動。中国少数民族写真家受賞作品展など中国でも作品を発表している。 主な受賞:2013年度三木淳賞奨励賞、同フォトプレミオ入賞、2015年第1回中国少数民族写真家賞入賞、2017年第2回中国少数民族写真家賞入賞など。