「利用者増えるわけじゃないけれど…」電車があるから学校に通える 赤字路線の知られざる絶景ポイント守る住民の思い
長野県を走る飯山線、川沿い約500メートルに桜並木
長野県の北信州のシンボル高社山が遠くにかすみ、手前に千曲川と桜並木、そしてJR飯山線を走る「キハ110系」の車両が並んだ。中野市上今井にある絶景ポイントで15日昼、近くに住む自営業の小林日出夫さん(62)が、フィルムの中判カメラを構えた。「桜の季節は日差しの加減で少しずつ表情が変わる。毎日来ています」と笑顔を見せた。 【地図】高社山(右奥)、千曲川、桜並木、飯山線を見渡せる絶景ポイントはここ
JRと組んでハイキングイベント初開催
景色にひときわ彩りを添えている桜並木は、地元で「通弥(つや)二郎桜」と呼ばれ、親しまれてきた。上今井駅と替佐駅の間の市道脇に約500メートルにわたって植えられた約40本の桜並木。小林さんら同市豊田地域の住民有志でつくる「小さな拠点に係る豊田地域運営協議会」が昨年から、整備に取り組んでいる。 前日の14日、上今井と替佐の両駅を利用し、見頃を迎えた桜並木などを巡るJR東日本のハイキングイベントが初めて催された。小林さんは、県外から訪れた鉄道マニアなど8人をガイドして、「ちょっとずつだけど、知られるようになってきたのはうれしい」と手応えを感じた。
「ほぼ毎日乗っていた」高校時代…鉄路が学びの選択肢を保障
替佐駅から数十メートルの距離にある自宅で育った小林さん。幼い頃は、定時に聞こえてくる踏切の音と列車のエンジン音は「時計代わり」だった。地元中学を卒業後、飯山市の北飯山駅のすぐ近くにある飯山北高校(現飯山高校)に進学し通学の足となった。週末も、野球部の練習試合で長野市や新潟県の高校まで鉄路で赴いた。「ほぼ毎日乗っていた」と懐かしむ。 卒業後、家業の水道業に就き、飯山線を利用する機会は減った。それから40年近くたち長女(25)、次女(24)、三女(22)の三人娘が飯山市内の高校に進学した。飯山線を利用するようになり、改めて存在意義について考えるようになった。 中野市豊田地域(旧豊田村)では、飯山線を利用して長野、飯山市の高校に通う高校生が少なくない。中には、長野駅まで出て、北陸新幹線に乗り上田高校(上田市)に毎日通う娘の友人もいた。「鉄路が子どもの学びの選択肢を保障している」と実感した。
「魅力を磨いて意思を示す」
しかし、赤字路線の現実は厳しい。昨年9月末、替佐駅は無人化された。上今井駅も2014年に無人化されており、「デジタルの時代にフィルムカメラを使い続けるぐらいだから根っからのアナログ人間。駅員とのやりとりがなくなるのはなんか寂しいな」とやりきれなさが募った。 利用者は減っても通学の足として存在意義を持ち続ける鉄路を守りたい―との思いも胸に桜並木の整備に取り組む小林さん。「整備したからといって利用者が増えるわけじゃないが、飯山線の魅力を磨くことで意思を示し続けたい」と心に決めている。 (松崎林太郎)