米中覇権争いの原点はアヘン戦争...トランプに欠けていた「中国人の近代史観」
キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問の宮家邦彦氏は、米中覇権競争の歴史的背景は、アヘン戦争にまで遡ると指摘する。トランプ氏の再選可能性を踏まえ、氏の中国観が今後の米中関係にもたらす影響について、書籍『気をつけろ、トランプの復讐が始まる』より紹介する。 【書影】トランプ再来後の国際政治と日本が待ち受けるシナリオとは? 『気をつけろ、トランプの復讐が始まる』 ※本稿は、宮家邦彦著『気をつけろ、トランプの復讐が始まる』(PHP新書)から一部を抜粋・編集したものです。
対中強硬では一貫していたトランプ外交
「インド太平洋」戦略と言えば、故安倍晋三元首相が提唱し、バイデン政権下で日米同盟関係が飛躍的に強化された印象が強い。しかし、米国で初めて「インド太平洋戦略」という概念を採用したのは、じつはトランプ政権の国防総省だ。 2018年5月には太平洋軍がインド太平洋軍に改称され、2019年6月には「インド太平洋戦略レポート」が公表された。アジアに関心が薄いと批判されたトランプ政権だが、2017年12月に公表された「国家安全保障戦略」では、「世界における米国の地位に影響を与える重大な課題および潮流」として、地域の独裁者、聖戦テロリスト、国際犯罪組織などより前に、「中国やロシアなどの修正主義勢力」との競争を挙げている。 興味深いことに、一体性を欠くと批判されたトランプ政権でも、対中強硬政策については政権内に一定のコンセンサスがあった。同政権の外交安保関係者は中国の台頭を「米国に挑戦し、これを代替しようとする試み」と捉えていたが、経済貿易関係者も、別の観点から中国の保護主義政策や最先端技術・知的財産権を盗取する態度を問題視していた。
トランプ政権下で同盟体制は弱体化し、不安定化した?
それでも、トランプ政権のインド太平洋外交については次のような批判がある。 •一般に同盟諸国との連携、多国間協調の推進、中国との競争関係の制御を軽視した。 •TPPから離脱し、逆に東アジア地域包括的経済連携(RCEP)の拡大を招いた。その結果、東アジア地域において米国の政治的・経済的影響力は低下した。 •日韓などの同盟国には米軍駐留経費の負担増を求め、同盟の信頼性を損なった。 •米ASEAN(東南アジア諸国連合)関連首脳会議に3年連続、EAS(東アジア首脳会議)に4年連続で欠席し、ASEANからの信頼を失った。 •中国に関税戦争を仕掛け、逆に地域における中国の経済的プレゼンスの拡大を招いた。 •中国との貿易協議が行き詰まると軍事的・経済的圧力を加え、「新冷戦」が始まった。 幸いトランプ政権には、国防総省やNSCに、インド太平洋地域の戦略問題をよく理解する、優秀かつ現実的なスタッフが少数ながらいた。彼らも全力を尽くしたとは思うが、そのわりには顕著な成果が伴わなかった。なかでも、外交的に最も混乱を招いたのはトランプ・金正恩首脳会談をめぐるドタバタではなかったか。