《家族が認知症だと思ったら…》“どうやって病院に連れていくか”に悩む人に有効な方法を専門家が指南
認知症について理解を深めることが大切
川畑さんが認知症への不安を少し和らげるエピソードとして教えてくれたのは、初期の認知症の段階で自身の異変に気づき、対策をしようとした68歳の平田さんの話だ。 平田さんが川畑さんの元を訪れたのは、「最近、記憶が苦手になった」という自覚が強まったことがきっかけだったという。 ◆心構えができていれば不安も減る 初期の認知症だとわかったにもかかわらず、平田さんは「原因不明の病気じゃなくてよかったです。次にどうなるのかわかっていれば、手も打てるし、心構えもできるじゃないですか」と、強がっているというわけでもなく、妙に明るく見えたそうだ。 「普通はこうはなりません。『とうとうこの日がきたか』『自分はもうダメだ』…と、認知症の診断がつくとほとんどの人は落ち込みます」 川畑さんは、平田さんが両親ともに認知症だったと聞いて、両親の人生を見守りながら、どんなことが起こってどうすればいいのか、認知症について理解を深めていたことがわかったという。 「大切なのは、認知症になったらどうなるか、どう支えられればいいかを事前に知っておくことです。今介護をしているかたは、介護をしていること自体が、実は自分自身の認知症に対する学びになっているという点も、ときどき思い出してみてください」 ◆次に起こることを知ってショックを緩和 「人は、知らないものに恐怖を感じます」と川畑さん。介護する側も、次にどうなるかわからないからこそ、この先に起こることを想像してビクビクして過ごすことになる。でも、「次に起こることがわかれば、大抵のことは受け止められるもの」だと川畑さんは言う。 「ある日突然、トイレの失敗を目の当たりにするのと、『そろそろ、トイレが1人でできなくなる頃かな』とめどをつけてから経験するのでは、大違い」だと続ける。 そのためには、本で予習しておいたり、ケアマネジャーに次に苦手になることをあらかじめ聞いておいたりするのがいい。 「少なくとも、心構えをしておくことで、ショックを緩和できるでしょう」 ◆教えてくれたのは:理学療法士・川畑智さん かわばた・さとし。理学療法士。熊本県認知症予防プログラム開発者。株式会社Re学代表。1979年、宮崎県生まれ。理学療法士として、病院や施設で急性期・回復期・維持期のリハビリに従事し、水俣病被害地域における介護予防事業(環境省事業)や、熊本県認知症予防モデル事業プログラムの開発を行う。2015年に株式会社Re学を設立し、熊本県を拠点に「脳いきいき事業」を展開。さらに、脳活性化ツールの開発に携わったり、講演活動を行ったりしているほか、メディア出演や著作も多数。 ◆監修:脳心外科医・内野勝行さん うちの・かつゆき。脳神経内科医。医療法人社団天照会理事長。金町駅前脳神経内科院長。帝京大学医学部医学科卒業後、都内の神経内科外来や千葉県の療養型病院を経て、現在は金町駅前脳神経内科の院長を務める。脳神経を専門として、これまで約1万人の患者を診てきた経験をもとに、薬物治療だけでなく、栄養指導や介護環境整備、家族のサポートなどを踏まえた積極的な認知症治療を行っている。著書に『1日1杯 脳のおそうじスープ』(アスコム)など。