「アンディサイデッド」「セヴシグ」は夢を見る アボリジニの伝統に平和への祈りを込めて
夢と現実の境目が“溶ける”服
「悪夢をイメージした」という後半の「セヴシグ」プレゼンテーションでは、ロックバンド「10-FEET」のTAKUMAが手掛けた不穏かつアップテンポな曲調に変わる。ニットアーティストの森竹未来とコラボし、ダメージ部分からハンドニットを覗かせたデニムジャケットやスエット、裾と端のほつれたチェック柄パンツやシャツで、夢と現実の境界線を曖昧に表現した。プリントを二重にし、視覚がぼやけたように見せるベトナムジャケットや、京都の機屋に依頼したという特殊な織りで、着用者からは無地に、他人からは柄に見えるセットアップの視覚的な仕掛けも、ゲストを“夢”に引き込んだ。
「アボリジニ」やその伝統的概念「ドリーミング」から由来するデザインも見どころだった。オーストラリア発祥のムートンコートや、「キッズラブゲイト(KIDS LOVE GATE)」コラボのグリーンのサボでアボリジニの誕生地に思いを馳せる。「DREANMING」の反転文字を記したチェック柄ハットや、「ドリーミング」概念の重要要素である輪廻転生を意図した「TIME THAT NEVER ENDS」の文字を胸元に刺しゅうしたニットで、アボリジニの哲学を融合させる。終盤に登場したブラックのプリントTについては、「アボリジニの神話に伝わる7色の蛇を生成AIに描かせたらこうなった。オーストラリアだから『AC/DC』っぽさも加えた」と長野デザイナーは笑う。
計43ルックを披露し終えて迎えるフィナーレは、再び爽やかなムードに。希望溢れる未来を祝福するかのようにシャボン玉が会場を舞い、ベッドシーツを模した真っ白な天幕が、風に吹かれてダイナミックに揺れ動く。先述の幣立神宮は、毎年8月に世界の平和を祈る「五色神祭」を開く。不安定な世界情勢の中でも、デザイナーの「僕らはそれでも夢を見たい」と平和を渇望する思いが込められていた。