流行危機なのに「麻疹ワクチン」が足りない大問題 武田は自主回収、第一三共・田辺三菱は出荷制限
厚労省の審議会の常連である川崎市健康安全研究所の岡部信彦所長は、マスコミの取材に対し、「成人の9割はワクチンや過去に感染したことによる自然免疫で抗体を獲得しているとされる」「まずは小児の定期接種を進め、成人で感染によるリスクの高い人は抗体検査などを受けて、必要であれば接種を受けてほしい」と語っているが、これでは十分ではない。 少なからぬ国民が麻疹ワクチンの接種を希望しているにもかかわらず、この説明は、彼らの声にまったく応えていない。
ワクチンが必要で、国内で製造できなければ、海外から買えばいい。 ワクチンを製造している企業は、グラクソ・スミスクライン、サノフィパスツール、メルク、ノバルティス、ファイザー、インド血清研究所など世界中にあまたある。 世界での麻疹ワクチン市場は、年率3.9%程度の成長を続けると考えられており、2030年にはその規模は約10億ドルに達すると予想されている。今後、麻疹ワクチン開発に参入する企業が増えるだろう。
どうして、麻疹ワクチンの供給先を国内企業に限定するのか。これは「安全保障」の見地からいってもナンセンスだ。 厚労省に求められるのは、麻疹流行時にワクチンを速やかに確保することだ。厚労省は、外資系企業の麻疹ワクチンを速やかに承認し、麻疹流行時には十分量を確保できるように体制を整備すべきだ。残念なことに、このような動きはないし、マスコミも指摘しない。 ■国内在庫がなく納品されない 筆者が勤務するナビタスクリニックの事務担当者は、「国産のMRワクチンは国内在庫がなく、発注しても納品は期待できません」と言う。この人物は元製薬企業の社員だ。国内のワクチン流通に詳しい。
では、どうすればいいか。国が動かなければ、自分でやるしかない。 前出の事務担当者は、「メルク製のMMR(麻疹・風疹・おたふく風邪混合ワクチン)を輸入し、希望者に接種しています。しかし、近日中に350本届きますが、焼け石に水です」と言う。 コロナパンデミックが収束し、海外渡航者が増加している。「海外勤務などの関係で、麻疹ワクチンの接種が必要な人の分を確保するだけで精一杯。接種を希望する人に回せる分はごくわずか」 (事務担当者)からだ。
これが、わが国の麻疹流行の背景だ。 厚労省は国民視点で世界中から麻疹ワクチンを確保すべきだ。また、麻疹ワクチンの2回接種を済ませていない人たちは、今回の流行が収束し、社会が落ち着いた段階で、最寄りのクリニックを受診し、MRワクチンを打つことを勧めたい。
上 昌広 :医療ガバナンス研究所理事長