【海外試乗】MVアグスタ「エンデューロ・ベローチェ」本気のアドベンチャー魂を宿したエレガントな実力派
【試乗インプレッション】
────────── 3気筒パワーと官能サウンドに酔いしれる ────────── 見た目は大柄だが、跨るとタンクがコンパクトでハンドルも近いためサイズ的な圧迫感はあまり感じない。燃料タンク容量は20Lと比較的コンパクトで、調整式のシート高は850㎜/870㎜とこのカテゴリーとしては標準的。224kgの車重はイメージよりも軽い。 ハンドリングは穏やかだが軽快。フロント21インチのどっしり感があり、しなやかな前後サスによって車体の姿勢変化を作ることで、タイトなワインディングも気持ち良く曲がっていく。逆回転クランクの慣性力によって加速でのフロントの浮き上がりや減速でのピッチングが抑えられるためか、足が長い割にコーナーへの進入や脱出での車体姿勢が安定している。 新開発の並列3気筒エンジンは全域で力強くアグレッシブだ。2,000rpmでも粘るし、10,000rpmでピークアウトしてからも伸びていく。排気量アップとともにロングストローク化されたメリットだろう。エンジンのレスポンスは鋭いがそこに慣れれば扱いやすい。そしてサウンド。下はワイルドな鼓動感に溢れ、回せばイタリアン・スポーツカーを思わせる官能的なエキゾーストノートが轟く。走りもどことなくスーパースポーツ的でエキサイティング。まさに3気筒MVの真骨頂だ。コーナリング中でも自在にギアチェンジできてしまうクイックシフターも秀逸だ。 ライドモードは全体的にアグレッシブな設定で「アーバン」が通常のツーリングモードとすると、「ツーリング」はスポーツモード並みに鋭く加速する。モードによってABS、トラコン、エンジンブレーキなどの設定も最適化され、乗り味もはっきりと変わるのが楽しい。大型スクリーンと一体化したカウルのおかげで高速巡行でも上体を伏せなくても快適。一日かけてワインディングや高速道路を400km近く走ったが疲労は少なく、街中でもサイドラジエターからエンジンの熱風を横に逃がしてくれるので快適だった。 ────────── ガチオフも行けるオフロード性能に脱帽 ────────── オフロードにもトライした。高級品のMVでしかも初のアドベンチャーだ。フラットダートを軽く走る程度かと思いきや、目の前には山を切り開いただけのヒルクライムコースが続いていた。覚悟を決めて飛び込んでいく。3気筒パワーでフロントを浮かせ気味にしつつ砂地をいなし、所々に岩がむき出したガレ場を飛ぶように走る。フルサイズの大径ホイールと専用設定のザックス製前後サスがしなやかに衝撃を吸収してくれるし、トルクがあるので低速ターンも安定している。車体の軽さも手伝って予想以上に楽に走れる印象だった。ちなみにタイヤはオプション指定のBS製AX41に履き替えられ、ライドモードも「カスタムオールテレイン」でオフロード用に最適化されていたが、走破性とドライバビリティの高さには脱帽だった。開発者の話では、3気筒逆回転クランクのエンジン特性に加え、エンデューロ・ベローチェ専用に開発したフレームが効いているようだ。伝統的なダブルクレードル形状ではあるが、アルミとスチールを組み合わせることで強度と剛性バランスを最適化。MVがアドベンチャーバイクに求める上質で快適な走りを実現できたという。 今回エンデューロ・ベローチェに乗ってみて、自分の中でのMVアグスタのイメージが「所有欲を満たす高級品」から「実用的なハイブランド」へと変わった。日本での発売時期や価格は未発表だが大いに期待したい。
エンデューロ・ベローチェ[2024]主要諸元(海外)
・全長×全幅:2,360×980mm ・ホイールベース:1,610mm ・シート高:850mm ・乾燥重量:224kg ・エンジン:水冷4ストローク3気筒DOHC4バルブ 931cc ・最高出力:124HP/10,000rpm ・最大トルク:10.4kg-m/7,000rpm ・燃料タンク容量:20.0L ・変速機:6段リターン ・ブレーキ:F=ダブルディスク、R=ディスク ・タイヤ:F=90/90-21、R=150/70R18 ・価格:未発表(2024/05)
ケニー佐川