『さよならマエストロ』タイトルに込められた真意 西島秀俊が奏でた家族の旅立ちと希望
俊平(西島秀俊)と晴見フィルは音楽でつながった“家族”
俊平が晴見フィルを選んだことを、楽団員たちは複雑な心境で受け止める。世界で活躍する俊平を引き留めていいのか、俊平の決断を尊重すべきなど率直な思いを打ち明けた。晴見フィルのメンバーは俊平を家族同然に慕っていて、いなくなってほしくないと思う反面、俊平の活躍を待ち望んでいる。どちらも偽りない本心だ。響の言葉はそんなメンバーの気持ちをすくい上げるもので、楽団員も音楽でつながった“家族”だから、俊平への感謝を深い部分で共有できたのだと思う。 音楽との出会い、そして別れは思いがけず訪れる。晴見フィルのメンバーが俊平と出会ったこと。俊平がシュナイダーと出会い、クラシックの世界に足を踏み入れたこと。それらは偶然にすぎないが、人生を変える出会いだった。シューマン作曲・交響曲第3番「ライン」に寄せる心情を俊平は「希望」であると語る。生きていればさまざまなことを経験するが、どんな日も太陽は昇る。運命が扉を叩く夜でも。 指揮者とオーケストラは何によってつながっているのか。楽譜をベースにした共有したサイン、練習を重ねて培われた呼吸、表情や息遣いの変化、それらの根底にある音楽への情熱。俊平と晴見フィルのアンサンブルの深化は、最後のステージから伝わってきた。大げさな仕掛けを用いなくても、丁寧に編まれた各話のエピソードと役者の感情の積み重ねが、魂の奥底に響く感動を生み出すことを『さよならマエストロ』は証明した。
石河コウヘイ