「湘南スタイル」を仕掛けた熱血監督の涙と苦労の7年とは?
終盤戦を迎えたJ1リーグではワースト2位となる、合計449本ものシュートを浴びている。しかし、枠内に飛ばされたシュートが占める割合は、18チームのなかで2番目に低いと曹監督は胸を張る。 「シュートを打たれても枠には飛ばさせない、という点はウチの十八番になっている。目に見えない戦術的な約束事であり、それができなかったらどんなに上手い選手でもピッチには立てないので」 決勝戦でもマリノスに15本のシュートを浴び、そのうち11本を疲れが蓄積する後半に集められた。それでも坂を中心とする3バックが、そして神奈川大学を1年で中退して加入したルーキーのボランチ金子大毅(20)らが鬼気迫るブロックで何度も阻止。自陣における連携も冴え、決定的な場面をほとんど作らせなかった。 埼玉スタジアムのスタンドには、ベルマーレの未来を担うユース、ジュニアユース、小学生の強化特待クラスの子どもたちが駆けつけていた。大一番を前にして受け取った寄せ書きには「優勝してください」という檄の前に、指揮官によれば「湘南スタイルで」という言葉が添えられていたという。 「子どもたちがそう書くのを見て涙が出そうになったし、あらためてクラブ全体の勝利だと思いました。いろいろな人がこの日を待ちわびていたと思うと、この場にいられることをすごく幸せに感じます」 これからも紡がれていく「湘南スタイル」の定義は「ピッチとスタンドが同じ価値観を共有して、これがベルマーレのサッカーなんだと胸を張れること」とある。スタイルを進化させる形で定義をほぼ完璧に実践し、クラブ創立50周年の節目にベルマーレ平塚時代の1994年度に制した天皇杯以来のタイトルを手にできた喜びが、そして雄々しく成長した選手たちの姿が、図らずも曹監督を男泣きさせた。 (文責・藤江直人/スポーツライター)