『ブギウギ』小さな幸せを噛み締める「おおきにや」に涙 “ツヤそのもの”の朝ドラ受けも
朝ドラ『ブギウギ』(NHK総合)第40話は、ツヤ(水川あさみ)を明るく天国に送り出したその後の話が描かれた。六郎(黒崎煌代)が戦地に出征し、赤字続きのはな湯に一人残ることになる梅吉(柳葉敏郎)をスズ子(趣里)は東京に誘っていた。ツヤとの思い出が詰まったはな湯を手放したくない梅吉。そこに手を伸ばしたのが、ゴンベエ(宇野祥平)だった。 【写真】宇野祥平に途中までキャスティングが知らされていなかったという本上まなみ はな湯に住み込みの従業員として働いているゴンベエは、川に飛び込んだところを梅吉に助けられた過去がある。記憶をなくし、本当の名前も分からない謎の人物だったが、三沢光子(本上まなみ)と名乗る女性がはな湯を訪ねてくることで、事態は急展開を迎える。 ゴンベエの本名は、伊福部玉五郎。船場にある大きな呉服屋の若旦那で、店が傾いたことで多額の借金を作り、道頓堀に飛び込んでいた。通称「玉さん」にいつか会えると信じていた光子が見つけたのが、まだスズ子が小さい頃(澤井梨丘)にツヤが描いたゴンベエの尋ね人の似顔絵。そこには光子が玉さんを慕い続けた思いの強さ、ツヤが起こした奇跡も重なっている。 一緒になり、2人合わせた400円ではな湯を再興させることを誓うゴンベエと光子。これまで浮かない表情の多かったゴンベエを演じる宇野祥平の照れ臭そうな仕草や、梅吉とスズ子に向けた恩情と決意が見える眼差しの強さが印象的だ。 ツヤからの贈り物を受けて、梅吉とスズ子はツヤの“コクピット”だったはな湯の番台で物思いにふける。ツヤとの出会いが梅吉にとっての一番の幸せ――であれば、ツヤのいないはな湯に自分がいるのは違うと、梅吉は考えを変える。そこには前に進むため、自分に言い聞かせていた部分もあったのかもしれない。 改めて、梅吉に東京で一緒に暮らすことを提案するスズ子。頭を下げる梅吉にスズ子は「当たり前におおきにはいらん」と声をかけるが、梅吉は「当たり前やから、おおきにや」とスズ子に返す。スズ子と梅吉が家族としていることは、血縁関係を考えれば決して当たり前ではない。戦地に向かった六郎に、若くして癌で亡くなっていったツヤ。生きていることすらも奇跡とすら思えてくる状況だ。そんな日々の日常の中で、見失ってしまいそうになる小さな幸せ、当たり前にもう一度目を向けた「当たり前やから、おおきにや」というセリフに思えた。 ラストシーンは、はな湯の常連に見送られながら大阪を後にするスズ子、梅吉と満面の笑みを浮かべる写真立ての中のツヤ。そこから次週の予告がインサートされるが、間抜けなBGMに乗せて「梅吉が捕まる」ということが丸わかりな内容に、大阪朝ドラの“ダメ親父”としての系譜がここで発揮されることがうかがえる。込み上がっていた感動が、ヒュルヒュルと引っ込んでしまうような予告であるが、そこを『あさイチ』(NHK総合)「プレミアムトーク」に出演の水川あさみが、「まいど! 今日は半額や!」と劇中の梅吉のセリフもしっかりと回収しながら、暗いムードを明るく笑い飛ばす朝ドラ受けは、ツヤそのものに思えてならなかった。
渡辺彰浩