大腸がん手術の技術向上へ、シミュレーターを共同開発 イービーエムと国立がん研究センター
医療従事者の技能を磨く訓練機器の開発・製造を手がけるイービーエム(東京都大田区、研究拠点・福島市)は12日、国立がん研究センターと共同開発した大腸の内視鏡外科手術シミュレーター「COLOMASTER(コロマスター)」を発表した。 コロマスターは大腸がんの手術などで行われる「腹腔(ふくくう)鏡下結腸右半切除術」の訓練に用いる。腸間膜や腹膜などの膜組織、胃や膵臓、腎臓などの周辺臓器、動脈、静脈の配置を1ミリ単位で再現した。腹腔の構造は複雑で同様の訓練モデルはこれまでなかった。 ポリエステルなどの化学繊維を用い、ゾル化素材を染みこませることで内臓の質感を再現した。人体構造の把握や内視鏡カメラを使用した場合の視野の展開、膜状組織を剥離する手技など、大腸がん手術の全工程を実際の医療機器を使って体験できる。 大腸がんの外科手術の訓練は動物で行われ、1回の訓練費用が100万円を超えるなどの課題があった。コロマスターは1体約20万円で販売する。安価かつ、軽量でどこでも訓練ができる。製品の活用により、外科医の専門的技能向上への貢献が期待される。
大腸がんの患者数は近年、増加している。国立がん研究センターによると、2019年の大腸がんの罹患(りかん)者は15万5625人で、がんの部位別で最も多い。コロマスターは手術用のロボットを開発する上で、機能を評価する製品としての活用も期待されている。すでに大手医療機器メーカーからの引き合いもあり、今年は約2千個の生産を見込んでいる。 イービーエムの朴栄光社長、共同研究した国立がん研究センターの伊藤雅昭医師、長谷川寛医師、斗南病院の寺村紘一医師らは12日、福島市にあるイービーエムの拠点施設FIST(フィスト)で記者会見し、コロマスターのデモンストレーションを行った。 伊藤氏は「世界の医療現場で求められる製品になった」と述べた。朴社長は「福島発の製品を世界に送り出すことが復興への貢献だと考える。もがきながらも今回、一つの試みが結実した」と語った。