東京五輪銅メダリストの兄が語る田中恒成の史上最速4階級制覇の真実…「井岡一翔に負けた弟はどんなボクシングをすればいいか迷っていた」
被弾覚悟の超攻撃的ボクシングからディフェンスから組み立てるボクシングへ。スタイルの変貌を兄は評価した。 「試合を終わった後の顔が綺麗だった。あれだけ手数の出るファイターに対して怪我なくやれた。そういうところが成長でしょう」 田中自身も、3年2か月ぶりの世界戦舞台だというのに、入場時から自分でも驚くほど落ち着いていたと明かしている。 「3年2か月…苦しい時間があってこそ。あの時間が良かったです」 2020年の大晦日に自信を持って挑んだ井岡との世界戦で8ラウンドTKO負けを喫してプロ初黒星を味わった。歴然としたスキルの差をつきつけられた。ショックのあまり、約1年休養。2021年の12月に石田匠(井岡)と再起戦を戦ったが、僅差の判定勝利だった。 兄は、その試合も見ていた。 「いいところがひとつもない試合。迷っていた」 弟の苦悩が手にとるようにわかった。 「あいつ自身が自分のボクシングを変えようと思ったことは今までなかったと思う。攻撃的なボクシングじゃ勝てない。ではどんなボクシンをすれば、スーパーフライ級で世界になれるか。そこを見つけられずに悩んでいた」 そして兄はひとつの助言を与えた。 「アメリカに行け!」 「日本じゃ、これ以上学べない。変わるためには、世界を見ないとダメだとアドバイスをしたんです」 田中は兄の言葉に真剣に耳を傾け、2022年3月に1か月間、ライバルの井岡が師事する米国ラスベガスのイスマエル・サラストレーナーのジムに通い、ディフェンスから組み立てる新しいボクシングを教示された。 「サラストレーナーのジムへ行ったり、海外を回って、弟は自分のボクシングスタイルが見えてきたんだと思う」 3年2か月の苦悩の結実を語る兄は、そう言って目を細めた。
リング上で田中は、次なる目標について熱く語った。 「4団体制覇をする目標を持っています。井岡一翔選手へのリベンジももちろん目標にあります。ただ個人的な理想としては、まずIBF(世界同級王者)のフェルナンド・マルティネスを倒したいです、2つ(のベルトを)持って、井岡さんと、このリング上に立つのが、リスペクトの気持ちであり、それくらいのものをかけてやる必要があると思う」 現在のスーパーフライ級の他団体王者は、WBAが井岡、IBFがフェルナンド・マルティネス(アルゼンチン)、WBCがファン・フランシスコ・エストラーダ(メキシコ)。田中は、まずマルティネスとの統一戦を実現させて2団体王者となってから3つのベルトをかけて井岡とのリベンジ舞台に立ちたいとの構想を抱く。それが、田中流の井岡への最大級のリスペクトなのだ。通常、王座決定戦で誕生した新王者は次戦で指名試合をクリアしなければならないが、厳密にいえばWBOには指名試合はなく、いきなりの統一戦も可能となる。ただ井上尚弥のような世界的なビッグスターでない限り各団体は統一戦に積極的ではなく、マッチメイクは簡単ではない。統一戦を実現するためには、今後インパクトのある防衛戦を続けて世界のマーケットでの価値を高める必要がある。 田中が披露した新境地のスタイルはまだ発展途上。 「押し込まれてバランスを崩す場面もあった。まだまだなんだなと。反省点と課題も見えた。今伸び始めたところという印象です。3年前もここがゴールだとは思っていなかった。ここで終わることはない」 その向上心があれば井岡へのリベンジロードを田中は駆け上るだろう。 兄の亮明氏がエールを送る。 「このベルトが次に強い選手と戦える切符だと思っていると思う。見ている僕もあいつ自身も満足していないでしょう。本当のチャンピオンになって欲しい」 日本で史上最速となるプロ5戦目でWBC世界ミニマム級王者となった天才が11年の歳月を経ていよいよ本格的に覚醒するのだ。 (文責・本郷陽一/RONSPO、スポーツタイムズ通信社)
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