日本巻き返しの「切り札」か 量子コンピューター開発競争が過熱
次世代の超高速計算機として期待される量子コンピューター。昨年3月に64量子ビットのプロセッサーを搭載した国産初号機が産声を上げて以来、12月には国産3号機の運用が始まった。米国や中国のIT大手も開発を強化する中、生成AI(人工知能)の開発で後れを取った日本企業の巻き返しが期待される。 【関連写真】日立が開発を進めるシリコン量子コンピューター 従来のコンピューターは電気信号を使って0か1かのビットで情報を処理して計算するのに対し、量子コンピューターは、0と1の両方が同時に存在する量子力学的な現象である「重ね合わせ」や、障害物を物体が通過できる「トンネル効果」を利用して計算を行う。 従来のコンピューターでは困難だった問題を高速で解くことができるため、効率的な新薬開発や、物流効率の向上に貢献する最適な輸送ルートの短時間計算のほか、材料開発、金融、気象予報などさまざまな分野で活用が見込まれている。 国内では、東大とIBMが2021年7月から、クラウド経由で利用可能な日本初の商用量子コンピューター「IBM Quantum System One」(27量子ビット)を導入。システムワンに127量子ビットのEagle(イーグル)プロセッサーを搭載した国内最大規模の127量子ビットの新型機も10月から稼働を始めた。 国産の初号機は、理研と富士通のほか、産業技術総合研究所、情報通信研究機構(NICT)、大阪大学、NTTの共同研究グループが開発。インターネットを介してどこからでも利用可能なクラウドサービスとして無償で利用できる。 一方で越えなければならない課題も多い。0と1の「重ね合わせ」状態は非常に壊れやすく、複雑な計算をしようとすると状態が壊れて誤りが発生するため、正確な結果が得にくい欠点がある。この課題を克服するためには、誤りを制御するエラー訂正技術の確立が求められるなど、量子コンピューターはまだ開発途上であり、本格的な実用化には時間を要するのが現状だ。 こうした課題を乗り越える要素技術の開発も進んでいる。日立製作所は先6月、シリコンを使った量子コンピューターの実用化に向け、量子ビットを安定化できる制御技術を開発、量子ビットの寿命を従来の100倍以上伸ばすことに成功。量子ビットの操作に使うマイクロ波の照射時間を調整することで、演算に必要となる重ね合わせ状態を長く維持できるようになった。 量子コンピューターの開発をめぐっては、世界では米グーグルやIBM、中国科学技術大学、浙江大学のほか、米スタートアップのRigettiが50量子ビット以上の制御を実現するなど開発競争が激化している。日本が主導権を握れるか、今後の開発の行方が注目される。
電波新聞社 報道本部