コロナ後遺症の「だるさ」、筋肉にまで根深いダメージが及んでいた、薬のはずの運動が毒に
すぐに疲れる速筋の割合が増える
骨格筋をつくる筋線維には、すばやく収縮する「速筋線維」とゆっくり収縮する「遅筋線維」の2種類がある。速筋線維は重いものを持ち上げたり短距離を全力疾走したりするなどの瞬発力がいる運動に使われ、遅筋線維は歩行や持久走などの緩やかで安定した運動に使われる。 ブスト氏らは、新型コロナ後遺症患者の骨格筋では、健康な人に比べて速筋線維の割合が多くなっていることを発見した。「筋線維の種類を変えるのは困難ですし、運動不足で変わるわけでもありません」と氏は説明する。「運動不足以外の要因が筋線維の種類を変化させたのです」 何がこの変化を促したのかは現時点では不明だが、新型コロナ後遺症の患者を悩ませる倦怠感を部分的に説明することはできるかもしれない。「速筋線維はエネルギーをすばやく消費するので、疲れるのも早いのです」とブスト氏は言う。
回復能力の低下
ブスト氏らは、新型コロナ後遺症患者の筋肉が損傷している証拠も発見した。 「健康な人の筋肉は、運動によって破壊され、修復されることで、運動前よりも強くなります」と、米コーネル大学の分子生物学者で、新型コロナ後遺症やME/CFSのPEMについて研究しているモーリーン・ハンソン氏は言う。氏はこれまでの研究で、ME/CFS患者ではこの修復の過程がうまくいかず、ダメージが蓄積してしまうことを確認している。 ブスト氏は今回の研究で、新型コロナ後遺症の患者でも運動後の筋肉の修復がうまくいっていないことを明らかにした。患者の場合、運動負荷試験の前にも後にも、筋肉組織の損傷の痕跡や、筋肉における免疫細胞が多く見られたのだ。 「筋肉の損傷が多数あっただけでなく、過去に損傷があったことを示す兆候も多数ありました」と氏は話す。この損傷はPEMが何度も繰り返された結果であると考えられ、損傷は回復能力の低下によってさらに悪化する。 「新型コロナ後遺症やME/CFSの患者の多くは、ゆっくりと進むクラッシュ(動けなくなるほどの疲労)を繰り返しています。これはPEMの波なのです」と、米パシフィック大学の研究者でPEMの研究をしているトッド・ダベンポート氏は言う。患者にとっては、スーパーに買い物に行ったり歯を磨いたりといった日常的な動作が、過剰な負荷になってしまう。 以前から言われているように、PEMがある人が症状の悪化を最小限にし、症状が続く時間を最短にするためには、自分のエネルギーの限界を知り、その範囲内で活動や休息を繰り返す「ペーシング」が大切だ。ブスト氏らの研究は、そのことを明確に裏付けている。
文=RACHEL FAIRBANK/訳=三枝小夜子