「力の指輪」シーズン2も配信中!「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズの歴史をご紹介
ピーター・ジャクソン版以前にもアニメ化されていた
だが、この作品の映像化は、ピーター・ジャクソン版の20年以上前に行われていた。ラルフ・バクシ監督による78年のアニメーション映画「ロード・オブ・ザ・リング 指輪物語」(劇場公開時は「指輪物語」)だ。これを劇場で見たときのことは忘れられない。 なぜなら、アニメーション映画=子供向けとされていた時代の作品にして、全く子どもには向いていないトラウマ必至映画だったから。Amazon版「~力の指輪」を紹介する前に、少々このアニメーション版について説明したい。 当時のアニメーション映画は、今のそれとはイメージが違う。日本アニメの父・手塚治虫が現役バリバリで、劇場公開されたのは人気テレビアニメの「ルパン三世」や「キャンディ・キャンディ」、「宇宙戦艦ヤマト」などの劇場版、そしてウォルト・ディズニーに憧れ独自路線を貫いていたサンリオ制作による「チリンの鈴」など。アニメーション映画は子どもたちの娯楽の核として存在した。 その中では超異質だった「~指輪物語」。かわいいキャラクターは皆無で、モーションは異様なまでにリアル。構成も暗くわかりにくいうえに、ピーター・ジャクソン監督の3部作でいうと「~二つの塔」の途中までしか描かれておらず、物語半ばで終わる。それゆえに、興行的には大失敗。日本でも当時劇場で見た、という声はあまり多くは聞かなかった。 これが再評価され、カルト的な人気を得たのはその後の話だ。じつはラルフ・バクシ監督はウォルト・ディズニーが作り上げてきたキャラクターアニメーションとカウンター関係のクリエーター。 擬人化した猫キャラ・フリッツが主人公の成人指定アニメーション「フリッツ・ザ・キャット」(72年)や、アフリカ系アメリカ人の抗議によって上映中止に追い込まれた「ストリートファイト(クーンスキン)」(75年)など、ラブ&セックス(&ドラッグ)を描いた子ども受けを全く狙わない独自路線の作風で知られている。 そんな彼が、表現の自由を求めてファンタジー作品に着手したのは自然の流れだろう。彼の「~指輪物語」はファンタジー路線の第2作であり、前作となるのは「ウィザーズ」(77年)。魔法使いものでありながら、戦時中の実写映像をインサートし、東西冷戦期にあった核戦争の脅威を示唆する、バキバキにエッジがきいた作品だ。 「~指輪物語」でも、彼らしい先鋭的な実験がなされている。アニメーターが作り出すアニメーション独自の動きにNOを突きつけるため、人間のモデルが演じた動きを収めたフィルムを一コマずつトレースし、それをアニメーション化(これをロトスコープといい、ディズニーの「白雪姫」などでも使われた)。 筆者が「妙にリアルで気持ち悪い」と感じたモーションは、今の技術でいうところのモーションキャプチャーが取り入れられていたからだ。そこが当時の観客には違和感にしかとらえられず、ハイファンタジー作品である「指輪物語」を、子供向けや万人受けのフィルターにかけなかったこともあわせて興行的な失敗となってしまった。 が、時がたつとともに、指輪ファンの間だけでなく、アニメーション映画、ファンタジー映画のファンの間でも、実験的な映像、原作が持つダークな世界観をねじ曲げることなく描いた意欲作として再評価されるようになる。アニメーションやファンタジー作品が、子供向けのものではなく、大人も楽しめるエンターテインメントとして認識されるようになったことで、ようやく時代が追いついたといえるだろう。 「指輪物語」初の映像化となったバクシ版「~指輪物語」が、いわゆるカルト作で一般的には失敗作の烙印(らくいん)を押されていたからこそ、ピーター・ジャクソンによる初の完全実写映像化「ロード・オブ・ザ・リング」3部作が生まれたといえる。 仮にバクシ版が成功していたなら、即「~王の帰還」まで完結させていただろうし、それを超えようとするクリエーターが現れるまでには相当時間がかかったはずだ。バクシ版から二十数年でジャクソン版3部作、そしてそれから約20年。運命めいた周期でやってきたのが、Amazon版の「~力の指輪」となる。