アメリカ大統領選ハリス氏に見る「女性初」の期待と「女王蜂」の危険
“当たり前”を変えるマイノリティーのリーダー
米国留学中の2012年、17歳だった。大統領選で共和党のミット・ロムニー氏を破って再選を果たしたバラク・オバマ氏のビクトリースピーチに、アメリカが熱狂していたのを覚えている。私の交換留学先はホワイトハウスから車で30分ほどのところにあり、大統領選の熱量がとても身近に感じられた。 そして21歳になった4年後、2016年の大統領選では、やはり留学中のカリフォルニア大学にいた。民主党のヒラリー・クリントン氏と共和党のドナルド・トランプ氏が対決。多くの世論調査の結果を覆してトランプ氏の勝利が確実になると、開票状況のゆくえを見守っていたバーでは悲鳴にも似た声があちこちから聞こえた。クリントン氏には、女性初のアメリカ大統領誕生の期待も大きかった。 あれから8年後の2024年、カマラ・ハリス氏が女性であり、アジア系、黒人というマイノリティーであることを前面に打ち出し大統領候補として名乗りを上げた。 政治に限らずどんな分野であっても、誰しもが進める道を照らしてくれるロールモデルは必要だ。「もしかしたら自分もなれるかもしれない」という気持ちは、例えば自分と同じ性別や人種であったら、より現実味が増す。マイノリティーの悩みや苦境を理解し、代弁し、固定化された“当たり前”を変えてくれるリーダーが必要である。 アメリカに留学した高校時代に、私は性的少数者(LGBTQ)という概念を知った。一番親しくなった友人の一人がLGBTQ当事者であり、放課後に集まる「Allies For Equality(平等のための仲間)」というクラブを立ち上げて活動していた。 “自由な国”だと思っていたアメリカは、性的少数者に対する偏見もあれば、アジア系住民に対するヘイトクライムもある。中絶に厳しい規制を設ける州も増え、女性の人権が脅かされている。 だからこそ声を上げていかなければいけない。発信力のある立場にマイノリティーの存在があれば、多くの人がその価値観や考え方に耳を傾け、政策や世論へ大きな影響を与え、社会を変える可能性がある。 その一方で、女性がリーダーになれば、部下や若手の女性に対してよりきつく当たる「女王蜂症候群(The queen bee syndrome)」のようなリスクがつきまとう。差別を経験した側はマイノリティーに厳しく当たるという指摘もあるからだ。 女王蜂症候群とは、男性社会で成功した女性が、自分の地位を守るために他の女性の活躍を快く思わない心情を指す言葉だ。少数派が自分の手にした地位を当たり前と思わず、先人たちの敷いてくれた道のおかげで成り立っていることを忘れずに、後進を応援していってほしいと願わずにいられない。 世界経済フォーラム(WEF)がまとめた2024年の「ジェンダーギャップ指数ランキング」で、日本は146か国中118位と出遅れている。特に政治や経済分野でリーダーとなる女性のロールモデルは少ない。理系のエンジニアや研究者にも女性は多くない。 実験や研究活動はずっと立ちっぱなしだったり、夜遅くなったりすることも珍しくなく、月経のある女性には体力的にきついことがある。また、製造業や建設業などでは、機械の巻き込み事故を避けるためにスカートの着用を禁止したり、異物混入を避けるためネイルをしてはいけなかったりと、おしゃれを制限せざるを得ない状況が“当たり前”とされる。 それでも、こうした分野に女性が増えていくことで、少しずつ工夫や改善の動きが生まれ、働き方や職場環境に変化が見られるようになった。女性の参入で議論が活発になり、チームワークの醸成やコミュニケーションの活性化も期待できる。 次々と「女性初」が消えつつある一方で、日本の総理大臣とアメリカの大統領への道はいまだに開かれていない。それでも、私たちは女性がリーダーとして支持されることを信じ、その道をさらに強く踏み固めていかなければならないと思っている。(宇宙工学エンジニア 小仲美奈)