「減反」見直しってどういうこと?/木暮太一のやさしいニュース解説
農家が赤字になったら国が補てん
―――「具体的には、どういうことなの?」 2010年度に民主党政権が「戸別所得補償」を導入しました。この制度は、農産物の価格が生産コストを下回った場合に、国がその差額分を生産農家に補償する制度です。つまり、農作物を生産して赤字になったら国が補てんするわけですね。 この制度では、減反に参加することを条件に、農地10アール(1000平方メートル)当たり1万5000円を一律支給されます(主食用のコメを作っていた場合)。 中小の農家はこの補助金が生活費の足しになり、農業を続けていくことができます。 ―――「じゃあいい制度なんだね」 しかし一方、現在の減反政策にはデメリットもあります。 現在の減反政策では、各農家に「割り当て」がされます。つまり、それ以上はつくれないんです。だから、自主的に生産性を高めてどんどん「商売」をしたいと思っている農家の邪魔をしてしまうのです。 つまり、弱者は守ってきたが、同時に強者が育たない環境になっていたのです。 ―――「なるほど……。難しい問題だね」
TPPで迫られる決断
しかし、「TPP」を目の前にして、政府も決断を迫られています。 今後、TPPが実際に動き始めたら、海外から安い農作物がどんどん入ってきます。日本の農業は、少なくとも価格面では太刀打ちできないので、生産性を上げて対策を取らなければいけません。 TPP交渉などで農業の国際化に注目が集まっている中、これまで長い間、政策で保護されてきた中小農家にも競争原理を適用する一方、大規模農家が自由に商売できるようにし、競争力を高める狙いがあります。 もしこれまでの減反政策が見直されれば、農業の主軸となってきた米が改革されることになり、他の農作物も大きく変わるきっかけになり得ます。 ―――「なるほどね。でもTPPでも聖域をなくす方向で議論してるんでしょ? 農業も普通の商品と同じようにしないといけない時期なのかもね」 ただ、一筋縄ではいきません。自民党の支持基盤が農村にあり、その農業団体が反発するのは確実だからです。ここで骨抜きにされる可能性がまだまだあります。 どんな政策にも、メリットとデメリットがあります。実施すると決めたのなら、勇気を持って決断してほしいと私は思います。 ――― 木暮 太一(こぐれ・たいち) 経済ジャーナリスト、(社)教育コミュニケーション協会代表理事。相手の目線に立った伝え方が、「実務経験者ならでは」と各方面から高評を博し、現在では、企業・大学などで多くの講演活動を行っている。『今までで一番やさしい経済の教科書』、『カイジ「命より重い!」お金の話』など著書36冊、累計80万部。最新刊は『伝え方の教科書』。