指揮者・井上道義、ラストイヤーにN響&服部百音と最後のショスタコーヴィチ
2024年末に引退を表明している指揮者の井上道義が同年6月29日、港区赤坂のサントリーホールにて「NHK交響楽団演奏会」を開催し、ソリストとしてヴァイオリニストの服部百音が出演する。 20世紀を代表する交響曲作曲家であるショスタコーヴィチに「ショスタコーヴィチは僕自身だ」というほど傾倒し、2007年には日比谷公会堂にてコンサートシリーズ「日露友好ショスタコーヴィチ交響曲全曲演奏プロジェクト」を成功させた井上。同公演は、井上がラストイヤーに盟友のNHK交響楽団とショスタコーヴィチの音楽に挑む最後の演奏会となる。 ソリストの服部は、デビューアルバムにアラン・ブリバエフ指揮、ベルリン・ドイツ交響楽団と演奏したショスタコーヴィチ「ヴァイオリン協奏曲 第1番 イ短調 作品77」を収めるなど、自身もショスタコーヴィチに傾倒する一人。ショスタコーヴィチの音楽を日本に広めた井上と、デビュー作と同じ楽曲を演奏する服部が、NHK交響楽団と共に贈る特別な公演となるだろう。 演奏予定曲はショスタコーヴィチの「ヴァイオリン協奏曲第1番 イ短調 作品77」、ロッシーニの歌劇「ブルスキーノ氏」序曲、ショスタコーヴィチの「ヴァイオリン協奏曲第2番 嬰ハ短調 作品129」。 井上は「普通、指揮者がソリストを指名してコンサートを企画するのだが。服部百音は逞しく激しく、普通あり得ないような企画を思い立ち、何とか実現させるエネルギーを持っている。…細い鶴みたいな体でよくやると思う。 勿論ジジイとしては最も愛する作曲家の作品でもあり、また今の日本人バイオリニストの中では最もショスタコーヴィチにふさわしい奏者であるので、文句なく引き受けたコンサートです。ロッシーニはドミトリーの最も憧れた作曲家で、彼のように軽やかでありたいと思ったようです。 人は無いものねだりするものです。2番の協奏曲のテーマと似ているというだけの私の軽薄な選曲です。2番をも楽しんでいただきたいので! お許しください」。 服部は「ドミトリー・ドミトリエヴィチ・ショスタコーヴィチは不思議な存在で、生身の彼に会った事は無くとも私は幼少期から曲を通じて幾度となく心を助けて頂きました。交響曲やコンチェルトや室内楽を弾いて聴いて彼の音楽の中にいる時は人間誰しも持つ”孤独”という感情に丸ごと共感、同調される様な不思議な安心感を持ったりしたものでした。ドミトリーの2つのコンチェルトを、前代未聞唯一無二の演奏をもって遺したい。という私の音楽家としての生涯を通じた使命と言える、思える事の大きなひとつがこのような形で現実になるとは思ってもみませんでした。彼の、生命体がもつ精神性の独自性、愛というものの必要性、人間を人間たらしめるもののエネルギー、この世の真理が音になっている真の音楽が世界一相応しいNHK交響楽団、そして自らショスタコーヴィチの先駆者となられその真髄を日本中に広めて下さった井上道義マエストロ、とても特別な彼らと共に協奏曲2曲全てをゼロから構築し遺す事ができるこの歓びと感慨深さは執筆に尽くしがたいものがあります。 初対面がN響共演での高輪の練習場の楽屋だった道義マエストロの心の友でもあるショスタコーヴィチ。そして服部と、N響と、引退を控えた道義先生との正真正銘最後の演奏となります。魂からの感謝を持って、私達の演奏をドミトリー・ショスタコーヴィチに捧げたいと思います。聴いて下さい」とコメントを寄せている。