最後のカード1枚をめくるまで勝敗は分からない。 ポーカーを通じて人生を考える、ラッセル・クロウからのメッセージ「ポーカーフェイス 裏切りのカード」
ギャンブル映画? それだけではない監督ラッセル・クロウが隠す切り札
ポーカーは欧米ではもっともポピュラーで庶民的なギャンブルであり、それをテーマにした映画も数多い。スティーブ・マックイーン主演「シンシナティ・キッド」(65年)やポール・ニューマン、ロバート・レッドフォード主演「スティング」(73年)といった古典的名作から、マット・デイモン主演「ラウンダーズ」(98年)、ダニエル・クレイグの「007/カジノ・ロワイヤル」(06年)など新世代の傑作まで挙げてゆけばきりがない。本作も、その系譜に連なるジャンルといえる。 ただ、ギャンブル映画の第一印象は、見進めるにつれ姿を変えてゆく。 この映画の主役はポーカーではない。ポーカーをしながら参加者それぞれが語りだす苦い過去と、そこからの再生の過程が主役なのだ。一見、人生の勝利者に思える者も一皮むけば借金あり、不倫あり、病気ありと負のカードが必ず手の中にある。そして、ほんの小さな偶然がゲームを逆転させる。その転換が、映画を興味深くコク深いものにする。ポーカーはあくまで人生の比喩だ。 さらに、それだけに留まらない監督ラッセル・クロウの仕掛けがある。終盤、突如として映画はクライムサスペンスへ変化、オーストラリア美術史講義を織り交ぜながら(どんな形で現れるかはお楽しみに)、さらに大きなツイストがあり、カードゲームのように観る者を混乱させる。ラッセル・クロウはその中心で表情を変えず、心の中で観客のとまどいをほくそ笑んでいる。まさにポーカーフェイス。ラッセルの演出手腕が光る。
「人生で最も苦痛な12ヶ月」緊急登板した監督の“苦労(クロウ)”
実はラッセル・クロウがこの作品の監督を引き受けたのは、撮影開始予定のわずか5週間前だったという。クロウ自身の父親が亡くなって1週間、映画のキャストも決まっておらず、コロナ禍のロックダウンで撮影中止の可能性もあった。そこから脚本を新たに書き直し、リアム・ヘムズワースやスティーヴ・バストーニらオーストラリア人俳優を軸にしたキャストを決め、撮影チームを組み立てた。映像はポスト・コロナを意識して、オーストラリア観光への興味を刺激するものになっている。 クロウの言葉によれば、その撮影は「おそらく人生で最も苦痛な12ヶ月」だったという。 しかし映画は完成し、人生の苦楽を改めて考えさせる良作になった。撮影時、クロウの年齢は58歳。そろそろ人生の手仕舞いを考える年齢だ。その意識は映画に色濃く反映されているように思える。 だが人生がポーカーなら、最後のカード1枚がめくられて逆転もありうる。監督はそんなメッセージを伝えたかったのかもしれない。 文=藤木TDC 制作=キネマ旬報社
「ポーカーフェイス 裏切りのカード」
●2022年/アメリカ、オーストラリア/本編94分 ●監督・脚本・出演:ラッセル・クロウ ●出演:リアム・ヘムズワース、エルサ・バタキ、RZA、エイデン・ヤング ●発売・販売元:アメイジングD.C. © 2022 Poker Face Film Holdings Pty Ltd