トランプ前米大統領の対中関税、「予想外の恩恵」がメキシコなどに波及
ドナルド・トランプ前米大統領が2018年とその翌年に中国製品に課した関税がもたらした影響を、誰も、とりわけトランプは予見できなかっただろう。関税を発動したとき、その狙いは貿易に関する中国の不公正な政策を改めさせることにあった。中国は国内企業に補助金を出し、特許の侵害を野放しにし、そして中国でビジネスを行う米国企業に中国企業との提携を強制して技術や企業秘密を移転させていた。 政策を改めさせるという点に関しては、トランプの取り組みは失敗に終わった。中国の政策は変わっていない。エコノミストたちは中国製品への関税は米国の消費者にコスト増となって跳ね返ると警告したが、結局それは現実のものとならなかった。人民元がドルに対して安くなったことで、ドルで製品を購入する企業にかかる関税のコストは相殺された。 一方で、予想していた人はほとんどいなかっただろうが、関税は中国経済の見通しを弱め、メキシコやその他の発展途上国に実質的に恩恵をもたらした。間接的には、関税は米国南部の国境を越えてくる移民の流れを穏やかにするのにも役立っているかもしれない。 ジョー・バイデン大統領は前任者が行ったことすべてを反射的に反故にしたが、中国との貿易戦争に関してはむしろ積極的に動いている。 バイデンはトランプが導入した関税を維持し、中国への先端半導体と半導体製造装置の販売を阻止することで圧力をさらに強めた。また、バイデンは中国の技術への米国企業による投資を禁じている。加えて、国内での半導体製造に補助金を出し、米国に輸入される中国製品に新たに高い関税を課すと脅している。中国の貿易政策を変えようという試みは失敗に終わったが、一連の措置、特に当初の関税は中国の製造業の国外移転を促し、中国の発展の妨げになっている。
中国からの生産拠点の移転
関税を回避するため、中国企業は生産拠点を国内から他のアジア諸国や南米に移した。特にメキシコやコロンビア、ベトナム、インドネシア、フィリピンだ。この動きは、関税がなければ中国経済が享受できたかもしれない設備投資や生産施設の設置、雇用増をそうした国々にもたらした。生産拠点のシフトはトランプの課税から6年の間に徐々に起こり、大きなものになった。 国外へと生産拠点を移した中国企業にとって、メキシコには2つの大きな魅力がある。ビジネスをしやすく、巨大な米国市場に近いことだ。最近の数字が物語っている。例えば、今年1~2月のメキシコの設備投資は2020年の3倍のペースで進んでいる。全てというわけではないが、その多くは中国マネーだ。他にもある。メキシコ工業団地協会によると、外資の製造企業の多くは中国資本で、米国との国境に近いモントレー周辺の団地を2027年まで借り上げている。メキシコの輸出はこの1年間で約6%増加し、2023年にはメキシコが初めて中国を抜いて米国の最大の貿易相手国になった。 生産施設は依然として中国企業が所有しているが、中国国内の工場とは異なり、中国政府の管理下にはない。中国の当局は国内にある工場のようにメキシコでの活動を指図することはできない。可能性は極めて低いが、仮に中国政府がメキシコにある中国企業の工場の所有者に操業しないよう命じたとしても、他の企業が工場を運営するだろう。中国の資本ですでに建設された生産施設は中国ではなくメキシコのもので、雇用と発展の原動力もメキシコが手にすることになる。 関税は中国経済の弱体化に貢献し、メキシコ、そしてベトナムやインドネシア、フィリピン、コロンビアといった発展途上国に恩恵をもたらす一方で、米国が直面している不法移民問題にも役立っているかもしれない。メキシコの経済が良くなれば、自国民だけでなく、南米各地から経済的な理由で北上してきた人々にもチャンスが生まれる。そうしてこれらの人々はさほど米国に行く必要がなくなる。その効果を測定することは不可能であり、米国南部の国境に押し寄せる人々は依然として多い。だが、間接的かつ意図的ではないにせよ、関税はこの面でもいくらか問題を軽減した。 おそらく誰も、特にトランプは6年前、あるいは4年前ですらこのような結果を予見できなかっただろう。関税を課したときのホワイトハウスの狙いからはほど遠い。だが、その影響は現実のものだ。中国の損失は前述の国々、特にメキシコの利益に転じ、米国の消費者の負担増は皆無だ。
Milton Ezrati