「肥満」「大腸がん」のリスクを高める意外な病気とは?
陽の光を浴びると、これら時計遺伝子が活性化されてタンパク質が作られ、そのタンパク質の量が周期的に増減することで、私たちの体のリズムを生み出しているのです(図1)。 一方、時計遺伝子(図1の場合、Per1遺伝子)の活性化の上昇期(早朝)に起きて早朝の陽の光を浴びると、時計の位相が前へ進みます。一方、タンパク質が産生されるというリズムの降下期(夜間の前半)で起きて光を浴びると、時計の位相が後ろへずれます。つまり、夜に強い光を浴びてしまうと、タンパク質が産生されるリズムが変化し、その結果、中枢時計が狂ってしまうのです。 さて、ここまでの説明では、まだ睡眠と腸には何の関係もなさそうだと思われるかもしれませんが、ここから少しずつ腸とのつながりを紐解いていきます。 時計遺伝子は全身のさまざまな細胞にも存在するとお話ししましたが、同じように、概日リズムも心臓や肝臓、さらには脂肪細胞や筋肉など全身に存在しています。そのため、肝臓や腎臓などの末梢臓器にも、それぞれに末梢時計と呼ばれる概日時計が存在するのです。代謝やイオン濃度の調節など、それぞれの臓器に特有の機能を制御しています。 末梢時計は全身の臓器にいくつも存在するので、各臓器の時計の時刻がずれないよう、視交叉上核の中枢時計が全身の時刻合わせをする役割を担っているというわけです。 ● 食事の刺激が体内時計に 影響をおよぼしている 中枢時計は、光の刺激によって時刻合わせを行います。光刺激をきっかけに、ホルモンや神経伝達物質などを介して、中枢時計と末梢時計の時刻を合わせるのです。
ただ、肝臓などの末梢時計は、中枢時計からの制御だけでなく、外界からの刺激によっても時刻合わせが行われます。外界からの刺激とは、食事です。食事によって体内時計が調節されるしくみを紹介しましょう(図2)。 マウスは夜行性のため、活動が盛んになる夜(暗期)に餌を食べます。一方、昼(明期)では、マウスは眠っています。そこで、いつもは眠っている明期に餌を与えると、肝臓の時計遺伝子の概日リズムが変化して、餌を食べる時刻に概日リズムが同調するようになります。食事の時間によって体内時計が狂ってしまうのです。 食事の時間と体内時計の同調を引き起こす刺激は、餌を食べることによって膵臓のβ細胞から分泌されるインスリンだと考えられています。じつは、餌に含まれる栄養素(炭水化物、脂質、タンパク質)の種類や量によっても概日リズムへの影響が異なることがわかってきました。 インスリンは、体内に取り込まれた糖質によって、分泌が促されます。糖質の中でも、ジャガイモに含まれる消化性多糖類のデンプンが、肝臓の末梢時計のリズムを強力に変化させることがわかりました。 一方で、同じ糖類であっても難消化性多糖類(食物繊維など)の一種は、インスリンの分泌を引き起こしにくく、末梢時計のリズムを変化させにくかったのです。 腸においても、腸管の表面を覆っている腸管上皮細胞の増殖や腸管バリア機能、また栄養素の吸収にも概日リズムがあります。腸管バリア機能とは、腸管における、食事由来の炎症反応を引き起こす抗原物質や細菌などが血中に入り込まないようにするしくみです。 ● マウスの糞便を6時間ごとに 回収してわかったこと マウスの腸管上皮細胞の場合、時計遺伝子がブドウ糖(グルコース)の吸収やペプチドの吸収に関与するタンパク質の産生量を調節しています。具体的には、活動が盛んになる暗期にグルコース吸収に関係するタンパク質が、眠っている時間帯の明期にはペプチドの吸収に関係するタンパク質の産生量が増加することで、暗期にグルコースの吸収が増加し、明期にペプチドの吸収が増加します。 胃の内分泌細胞にも、概日リズムがあります。そのため、時計遺伝子の1つ(Bmal1という遺伝子)が欠損したマウスでは、概日リズムがなく、餌を食べる量の日内変動(1日の中で変動すること)が見られません。