絶好調なのに来期は大幅減益予想?? トヨタが新年度で狙う「意志ある踊り場」とは
■「余力づくり」が10年後のトヨタを作る
先月の「トヨタ自動車佐藤社長1年目の通信簿」でも触れたとおり、「余力づくり」が新たなトヨタの取り組みとして今年度の事業計画に強く反映されました。 世界生産台数は年初内示の1040万台から1000万台に引き下げました。今の仕事の在り方を見つめ直し、生じる余力を10年先にあるべき構造転換につぎ込もうとしています。 市場環境の悪化があっても、営業利益5兆円を稼ぐ実力に変化はありません。ただし、合計7000億円(人的資源で3800億円、成長領域で3200億円)の未来に向けた先行投資を実施するため、計画として4兆3000億円に一時的に落ち込む見通しだと説明しています。 「人的資源で3800億円」とは、サプライヤー/販売店の賃率引き上げを支援する3000億円を含む人への投資です。 「成長領域」とは、電気や水素エネルギーの電動車がOS化・ソフトウェア化されモビリティや社会と繋がることです。循環経済型の事業構造への転換を意味していて、トヨタはこれを「モビリティカンパニーへの変革」と呼んでいますが、こういった構造変革をサプライヤーとやろうとしているわけです。 ただし、トヨタが計画するように本当に大幅減益に陥るという意味ではありません。先述の「市場環境の悪化」で3000億円の減益要因を見込んでいるところが、そもそも厳しすぎる前提と筆者は考えています。 裏話になりますが、余力づくりは製造現場だけではなく、予算を作成する経理や財務部門も取り組んでいる課題です。これまでは海外現地法人と遅くまで残業しながら予算折衝を繰り返し、緻密な予算づくりをしてきました。 今年の予算作成ではこの負荷を落とすなど、本社社員も余力づくりに取り組んでいるのです。 要するに、短期決戦で取り組んできた予算折衝を走りながら実施するということです。市場環境の悪化で織り込んだ減益要因が増益に転じるなら、何千億円もの増益要因が生まれることになるでしょう。 多くの株主がトヨタの減益予想に動揺しないのは、同社の徹底した取り組みと信念を評価しているからだと言えます。グループ不正問題を機にトヨタはあるべき姿を真剣に取り戻そうとしています。それを株式市場は評価していると考えられます。 今から10年前、経営危機に直面するトヨタの豊田章男社長(当時)は「3年間、国内外で車両工場の新設を原則凍結する」と言いました。 その時、豊田社長に「3年凍結は社内引き締めのための精神論ですよね?」と聞いたら「なに言ってんだ、本当に作らないんだよ」とお叱りを受けた記憶があります。 立ち止まり、台数を経営の尺度から外し、持続的な成長をもたらす真の競争力を社員全員で考え直そうということだったのです。 その結果生まれたのが「現場」と「商品」という新しい経営の軸でした。佐藤恒治社長の下でトヨタが何を見つけ出すのか、筆者は多大な関心を持って見ています。