映画『HAPPYEND』:高校生役で主演デビュー、栗原颯人と日高由起刀が語り合う「未来への予感」
松本 卓也(ニッポンドットコム)
空音央(そら・ねお)監督の長編劇映画デビュー作『HAPPYEND』が公開中。卒業を控えた高校生の友情を描いた「学園モノ」でありながら、巨大地震が迫る不安や、治安を名目にした監視の強化、社会の分断、多文化共生など、これからの社会が直面する問題が背景に描き込まれ、新感覚のドラマに仕上がった。演技未経験で銀幕デビューを果たした主演の栗原颯人と日高由起刀に話を聞く。
『HAPPYEND』は坂本龍一のコンサートドキュメンタリー『Ryuichi Sakamoto | Opus』を監督した空音央が初めて挑んだ長編劇映画。脚本を自ら執筆し、物語の舞台には現在からそう遠くない未来の日本を選んだ。 毎日のように地震が発生し、巨大地震の大都市直撃が現実となる日におびえる人々。政府はその不安に乗じて「緊急事態条項」を設けた憲法改正を推し進め、世論は反対派と賛成派に分断されている。
不穏な空気が社会を支配する中、警察は治安対策を強化。個人情報を管理し、顔認証によって瞬時に身元を割り出す技術を導入していた。 主人公はそんな世の中を生きる2人の高校生、ユウタとコウ。「音楽研究部」の仲良し5人組でつるみ、DJイベントに出かけたり、夜中に部室に忍び込んで音楽をかけたりして、残りわずかとなった高校生活を楽しんでいた。
モデルと俳優の違い
ユウタとコウを演じるのは、これが映画初出演となる栗原颯人と日高由起刀。ともにモデルを始めて2カ月というタイミングでオーディションを受け、本作への出演が決まった。2人ともそれ以前に演技の経験はなかったという。 日高 由起刀 モデルのオーディションですら場数を踏んでいなかったので、何をどうやればいいのか分からない状態だったんですけれど、会場にいた監督やプロデューサーがそれを受け止めてくれる雰囲気でした。 栗原 颯人 僕も台本というものを手にするのが人生で初めてで。でも監督の音央さんがやりやすい空気をつくってくださったので、「楽しんでやろう」みたいな感覚で、そこまで緊張せずにできました。一通り演技してから、役について思ったことや、自分の過去のエピソードを交えてお話しする時間もありました。 栗原颯人が演じるユウタは、裕福な家の育ち。母は海外出張で留守が多く、リビングは仲間たちの格好のたまり場になっている。 栗原 ユウタのキャラクターが僕自身の境遇や性格と似ていたんです。シングルマザーで、音楽が好きで、いたずらっ子で……。自分も高校時代は友達とずっとバカやって、遊んでばかりいましたからね。 日高 僕にとって高校は陸上競技のためだけに通っていたような感じでした。校則が厳しくて、携帯電話が禁止。一番意味が分からなかったのは腕まくりがダメとか(笑)。もっと高校生活を楽しめば良かったなという思いがあったので、今回“高校生の青春”みたいなことができて楽しかったです。 ―高校生の役と聞いてどう思いましたか? 日高 僕は当時、卒業してまだ半年たっていないくらいだったので、懐かしさっていうよりは、そのままの自分でいけました。 栗原 僕はもう5年くらいたっていたので、「高校生……、かな?」みたいな(笑)。若干不安はあったんですけれど、内面的にそんなに変わってないかもなと。 日高 確かに。 栗原 おい(笑)。いや、自分はそのままでいいのかなとも思いつつ、やっぱり年の差もあるので、笑い方だったり、無邪気さだったり、幼い部分や思春期のとがった部分もある程度は出さなきゃいけないなと、意識しながら演じていました。 ―モデルの仕事との違いは? 栗原 カメラがないところでもずっと考えている。モデルはカメラの前に立つ時間に集中すればいいですけれど、俳優はそういう瞬発的なものに加えて、考える時間もすごく多くて、それが個人的には楽しいなって思えました。脚本に書かれたキャラクターだったり、メッセージ性だったりを考えるのも、すごくいい経験になりました。