アメリカで絶賛されるハリウッド製『SHOGUN 将軍』…北米で“日本ブーム”が巻き起こったきっかけ
今年の2月27日から米FXチャンネルで放送、日本ではDisney+(ディズニープラス)で配信が開始された超大作ドラマ『SHOGUN 将軍』。本作は、ハリウッドで活躍中の真田広之さんが主役・プロデューサーを兼任していることも注目を集めている。 【写真】日本人だけが知らない「日本の強さ」の正体…アジアで見た意外な現実 アメリカのディズニー傘下であるFXが制作し、北米圏を中心に絶賛されている本作はジェームズ・クラベルの小説を元に、1980年に三船敏郎や島田陽子ら主演で制作され、“日本ブーム”を巻き起こしたドラマ『将軍 SHŌGUN』の新解釈版。1600年代の日本を舞台に、日本に流れ着いた航海士のジョン・ブラックソーンが陰謀渦巻く政治闘争に巻き込まれていく様を、日本人が見ても違和感のない日本描写と共に描いている。 だが、ハリウッド映画に登場する日本描写のなかには違和感を抱いてしまうものも多い。これらの描写がなぜ生まれ、『SHOGUN 将軍』を経てどう変革していくのかについて、織田信長をモデルにした黒田信久役で本作にも出演されている、ハリウッド俳優の尾崎英二郎氏に伺った。(以下、「」内は尾崎氏のコメント)
“アメリカ目線の描写”にはなかった「クオリティー」の実現
本作は世界的大ヒットドラマを引き合いに出して“日本版『ゲーム・オブ・スローンズ』”とまで称されており、大手批評サイト『ロッテン・トマト』では、批評家の意見を数値化したトマトメーターで驚異の99%を記録しているが、なぜ北米の観客の心を掴めたのだろう。 「近年、日本国内でも制作が難しくなっている大型時代劇が、ハリウッドでの地位を確立してきた真田広之さんが指揮する北米と日本の融合チームによって、最先端の技術と空前のスケール、 そして“日本描写”に違和感のない脚本と映像で具現化されました。それが、大人向けで生々しい政治的な闘争や燃えたぎる野心が、深みとディティールをもって紡がれる作品がついに生まれた! と好意的に受けとめられたのだと思います」 「あとは1980年に旧シリーズが全米で大ヒットし、抜群の知名度であったことも大きいです。当時、映画ファンの間では1950年代以降の黒澤映画の影響によって“侍”文化は知られていました。 しかし“将軍”という名が庶民に浸透したのは、当時の米国人口の半分の1億人が連夜テレビに釘付けとなり、数々の賞をも席巻したからです。80年代は経済成長も著しい“ニッポン”への注目が最も集まっていた時代。その後のハリウッド映画に『日本の題材』が数多く生まれる火付け役になったとも言えるでしょう」 今回の“新解釈”版でアップデートされた部分が現代の観客を捉えたと尾崎氏は指摘する。 「過去に何度も見たような『西洋人が未開の地を訪れ、影響を及ぼす』という偏ったストーリー構成を塗り替える大胆な試みが新鮮に映っていると思います。また、旧作では日本側の登場人物たちのセリフには英語字幕が入らず、主に劇中で通詞を務める“まり子”役が訳した英語を通じて、主人公の英国航海士“ブラックソーン(按針)”が置かれた境遇を追体験する形がとられていました。 しかし新作では、日本側の人物たちの言葉が丹念に翻訳され、演技に見合う研ぎ澄まされた英語字幕を入れ、武将たちや戦国を生き抜く女性たちを主体性をもって描き、一人ひとりの心情や思惑が感じ取れる形を実現しています。7割のセリフが日本語にも関わらず、視聴者を惹き込む巧みな筆力が本作最大の魅力だと思います」 近年の北米の観客は“西洋人の視点”だけでは描けないおもしろさを求める傾向がある印象だが、そこにも本作はフィットしたということか。 【後編】『日本人ハリウッド俳優が語る…『SHOGUN 将軍』で真田広之が勝ち取った地位は「日本人で最大級」と断言する理由』では、主役・プロデューサーを務めた真田広之さんの「凄さ」について話を聞いた。
むくろ 幽介(ライター)