穂志もえか いま世界が注目する女優「カナダで8ヵ月、現場で伝説を目撃しました」
「いま、日本ではフリーで活動しています。それなのに最近、アメリカでの所属事務所を決めちゃったんです(笑)」 【画像】穂志もえか レッドカーペッドで真田広之らとパシャリ 少しおどけたような表情でそう話したのは、女優・穂志(ほし)もえか(29)だ。 9月15日(現地時間)、アメリカテレビ業界のアカデミー賞とも称される第76回エミー賞の授賞式が行われ、真田広之(63)プロデュース・主演のドラマ『SHOGUN 将軍』が作品賞、主演男優賞、主演女優賞をはじめとした主要部門を総ナメにして史上最多18部門を制覇した。 戦国時代末期、関ヶ原の戦い前夜を題材にした本作で、穂志は主人公の一人、日本へ漂着したイングランド人航海士ジョン・ブラックソーン(三浦按針)の妻になる宇佐見藤を演じ、国内外からの称賛を浴びた。 「『SHOGUN』公開前に3万人もいなかったインスタのフォロワーが、いまでは14万人を超えました。そのほとんどが作品を観てくれた海外のファンなんです。改めて、このドラマが世界に与えたインパクトの大きさを感じました」 穂志は’16年に行われた『ミスiD2016』でグランプリを受賞後、本格的にキャリアをスタートさせ、今年で俳優活動7周年を迎える。 「とはいえ、たくさん場数を踏んでいるわけではないんですよ。強(し)いて言えば、今泉力哉監督(43)に『愛がなんだ』(’19年)、『街の上で』(’21年)、『窓辺にて』(’22年)と連続して起用してもらっているくらいで。私、自動販売機の入れ替え補充みたいな、日常に確かに存在するけれど誰も気に留めない瞬間が好きなんです。それが今泉さんの感性と共鳴しているというか、どこか似ている感覚があるんじゃないかな」 そんな穂志が『SHOGUN』のメインキャストの座をつかんだのは、’20年のことだった。 「クリエイターチームはアメリカにいたので、オーディションは映像でした。通常は1回ビデオを送ると、監督たちから『次は別のパターンを見せて』みたいなリクエストが来て、それを送り返して……みたいなことを繰り返すんですけど、私は一発で役が決まったんです。理由はわからないけど、制作陣がイメージする藤の像にハマっていたのかなって」 キャリアのほぼすべてを日本で過ごしていた穂志にとって、カナダ・バンクーバーでの8ヵ月間にわたる撮影は大きな挑戦だったという。 「撮影が始まったのは’21年の夏から。当時はコロナ禍だったし、相当な覚悟を持ってこの作品に参加したので、撮影中は一度も日本に帰りませんでした。それでも、バンクーバーでの暮らしは快適でした。キャスト一人につき1台車を用意していただいて、現地採用のドライバーさんがついてくださって。私はあまり英語が得意じゃないんですが、すごく優しい方だったのでコミュニケーションには困りませんでした。オフの日は、戦国の世に生きる女性を演じるうえで無理がないように薙刀(なぎなた)やお茶、そろばんなどの稽古に行っていましたね。 撮影現場も日本とは大違い。スタッフさんが撮影の途中で帰っちゃうんです。『私はもうシフトが終わったからあとは別のスタッフが引き継ぐわね。じゃあね!』みたいな(笑)。日本だと、ヘアメイクさんとかスタイリストさんは、役者より早く来て役者より後に帰るイメージだったので驚きました。 役者へのケアも本当に手厚かったです。一度、撮影中に体調が悪くなっちゃったことがあって。それをスタッフさんに『強いて言えば、着付けの方法がいつもと違ったかも』と漏らしたら、『なんでもえかが具合悪くなったんだ!』って着物担当の部署が責任追及されてしまって、本当に申しわけなかったです。 また、日本での知名度がほとんど通用しないので、この人はスターだからとか、この人はキャリアが浅いから……とかは一切なかった。皆が平等で良い作品を作ることだけに集中していました」 ◆日本映画界に片思い 穂志が演じた藤は、作品の冒頭で武士である夫と生まれたばかりの一人息子を亡くし、その後数ヵ月も経たぬうちに主君の思惑によって旗本となったイングランド人、按針との再婚を迫られ、それを受け入れる。まさに戦国の激動を生き抜く強い女性の象徴のような文脈で語られることが多いキャラクターだが、穂志は「実は藤って弱いんです」と話す。 「たしかに観ていただいた方は皆、『なんで藤はあれほど強い女性になれたんですか?』って聞いてくれるんですが、全然そんなことはない。最初の夫と子供が亡くなったときは自分も死のうとするし、言葉の通じないイングランド人との結婚を持ちかけられたときは『出家して尼になりたい』って懇願するし。女性としての強さよりも、人としての脆さや弱さを意識して演じました」 夫・按針を演じたイングランド人俳優コズモ・ジャーヴィス(35)とは、撮影中も特別な絆を感じたという。 「私の役は英語を話せないし、彼の役も日本語を話せない設定。それでも、言葉以外のエネルギーのキャッチボールを、芝居の中ですることができた。オールアップの日、コズモが手紙をくれたんです。ノートをちぎった紙に走り書きで『君の演技は最高だった』みたいなことが書いてあっただけなんですが、そんな不器用さもコズモらしかった」 『SHOGUN』は、穂志の目を世界に向けるには充分な作品だったようだ。 「自分の120%を出せる環境で演技することができて嬉しかった。それを感じていたのは、私だけじゃないと思います。藤の祖父で、真田さんが演じる吉井虎永(徳川家康)の腹心、戸田広松(細川藤孝)を演じた西岡德馬さん(77)の切腹シーンは私にとって衝撃的でした。『德馬さん、伝説作ってしまったな』って思いました」 現在国内ではフリーで活動する穂志だが、『SHOGUN』をキッカケに海外進出を目指し、アメリカのエージェントと契約した。 「英語を習ったり、今まで観てこなかった『アベンジャーズ』みたいなハリウッドの超大作を観てみたりしています。敵をバンバン倒すようなアクションもやってみたいですね。 もちろん主戦場は日本なので、沖田修一監督(47)とか橋口亮輔監督(62)、片山慎三監督(43)、濱口竜介監督(45)、岨手由貴子監督(41)の映画に出てみたい。ご一緒したい監督は、名前を挙げればキリがありません。でも、哀しいかな私はずっと、日本映画界に片思いをしてるんです。やりたいって言い続けても、振り向いてもらえないというか、監督の琴線に引っかからないというか……。 だから、私を必要としてくれるところで、いいものを作りたい。それがアメリカか日本かはわからないけれど」 穂志はいま、ハリウッド女優への道を歩み始めているのかもしれない。 『FRIDAY』2024年10月11日号より
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