【高齢者孤独死の壮絶な真実】特殊清掃業者が明かす「残されたペットがご遺体を食べ…」目を疑う現場
北海道を拠点として、特殊清掃業務を行う「アイムユー」。代表取締役である酒本卓征氏の話を【前編:特殊清掃業者が見た「大便入りのビニール袋数百個にゴミ20m」衝撃光景】につづいて紹介したい。 大量の糞の入った袋に尿の入りペットボトル…高齢者の孤独死「生々しい清掃現場」写真 高齢化社会において、高齢者の独り暮らしは年々増えている。日本には、どれくらい高齢者が単身で生活をしているのだろうか。 2020年の統計では、男性がおよそ231万人、女性がおよそ441万人となっている。合計すると700万人近い高齢者が独りで余生を過ごしているのだ。 昔は、高齢者の独り暮らしとはいえ、地域とのつながりがあり、近隣住民と交わる機会があったり、近所に暮らす親族が遊びに来たりしていた。だが、地方の過疎化が進み、人々が縁もゆかりもない都市部に暮らすようになったことで、地域とのつながりを持たない者が増えた。 そんな高齢者たちが寂しさを和らげる手段として手元に置こうとするのがペットである。犬とか猫といった動物と接することで心を満たそうとするのだ。だが、そうした高齢者が家の中で突然倒れ、帰らぬ人となることがある。孤独死だ。 ◆家の食べ物がなくなると…… 酒本氏が特殊清掃の現場へ赴くと、ペットが取り残されていることがあるという。家主が死んで、そのペットだけが生きているのだ。 そういう現場には、ペットの糞が大量に散らばっていることがある。酒本氏はそれを見るとある懸念を抱くそうだ。 酒本氏の言葉である。 「家で家主が突然亡くなられた場合、ペットが家に取り残されてしまうことがあります。最初ペットは家にある食べ物を漁ることで飢えをしのぎますが、それがなくなると家主のご遺体に手を付けることがあるのです」 一般的に孤独死があると、警察が現場を調べ、死体検案のために遺体を運び去る。だが、ペットを連れて行くことはしない。 酒本氏ら特殊清掃業者が家に入るのは、その後だ。家主が孤独死して2、3ヵ月後に発見されていれば、ペットはその間ずっと家に閉じ込められていたことになる。それなのにペットが丸々と太っていて、家中に大きな糞が転がっていれば、考えられる理由は1つだ。 ――ペットは家主の遺体を食い漁って生き延びたのではないか。 おそらく依頼主(親族や集合住宅のオーナー)は、発見した現場の状況や遺体の様子からそのことに気づいているか、警察から教えられたかしているだろう。だが、わざわざそれを特殊清掃業者に細かく伝えることはしない。彼らはただ家の片づけと同時にペットの「処分」を依頼するだけだ。 このような場合、特殊清掃業者を悩ませるのがペットをどうするかだ。依頼主にしてみれば、家主を食べて生き延びたペットを引き取りたくない。だから、酒本氏のような特殊清掃業者に家具と共にペットの処分も頼むのだが、最近は保健所ですら簡単には引き取ってくれなくなっている。たとえば、動物保護団体に保護を依頼し、何件も断られたという証明を見せて初めて、引き取ってもらえるのだ。 特殊清掃業者にとってそれは大変な作業だ。だが、まさかペットを野に捨てるわけにもいかないので、動物保護団体に事情を説明した上で、保護を依頼することになる。むろん、それまでの世話は特殊清掃業者の役目だ。 酒本氏は言う。 「お年寄が寂しさからペットを飼う気持ちはわかります。しかし、親族がペットに食べられてしまったご遺体を見た時のショックは計り知れません。独居のお年寄には、きちんとそこまで考えてペットを飼うかどうかを決めてほしいと思います」 ◆肉片と体液を丸一日かけて清掃 ペットだって愛すべき家主を食べたいとは思わないだろう。だが、家主が突然死し、家に閉じ込められれば、遺体を食べて生き残ろうとするのは動物としての本能だ。その結果、ペットも含めて遺された人々みんながつらい状況に陥るのだ。 むろん、特殊清掃業者の人々も同じだ。これに限らず、真夏に何週間、何ヵ月も放置され、腐敗した遺体を片付けるのは想像に絶するストレスがある。 少し前も、浴室で死亡した人がおり、お湯の中でドロドロに溶けた肉片と体液を丸一日かけて清掃しなければならなかったそうだ。湯船の中からは、指などが出てきたため、警察へ連絡して改めて持って行ってもらったという(頭髪や体液は業者が片付けられても、身体の一部は遺体として見なされるために勝手に捨てることができない)。 気の遠くなる作業だが、特殊業清掃業者の従業員だからといって誰もがこうした現場に対応できるわけではない。酒本氏は現場に社員を派遣する際は、事前に状況を詳しく説明し、作業ができるかどうかを確認するそうだ。悲惨な光景に慣れない人は、いくらやっても慣れないらしい。 酒本氏は言う。 「僕としては誰もが一度は人生の終わりの光景を想像しておくべきだと思います。特に中高年はそうです。遺品をどうするのか、ペットをどうするのか、仕事の処理を誰に頼むのか、その費用をどうするのか。きちんと自分の死後のことを考え、やるべきことをやっておきさえすれば、周りの人はつらい思いをしなくて済むのです」 特殊清掃の仕事の詳しい内容については、『無縁老人』を読んでいただきたいと思う。 いずれにせよ、人は他者によって生かされている。だからこそ、自分が死んだら終わりではなく、死後に周りの人たちに負担をかけないように、できることをしておくことが大切なのだ。 取材・文:石井光太 ’77年、東京都生まれ。ノンフィクション作家。国内外の文化、歴史、医療などをテーマに取材、執筆活動を行っている。著書に『絶対貧困』『遺体』『「鬼畜」の家』『43回の殺意』『本当の貧困の話をしよう』『格差と分断の社会地図』『ルポ 誰が国語力を殺すのか』などがある。
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