朝ドラ『虎に翼』大庭梅子の夫と息子は当時の理想像? 上位1%の学歴と女遊びで上がる男のステータス
NHK朝の連続テレビ小説『虎に翼』の第4週「屈み女に反り男?」が放送中だ。今週クローズアップされているのが、主人公・猪爪寅子(演:伊藤沙莉)の同期である大庭梅子(演:平岩 紙)である。いつも明るく寅子たちを引っ張ってくれる彼女は、弁護士の夫・大庭徹男(演:飯田基祐)との離婚、そして親権獲得のため、法律の道を志した。今回は、そんな大庭家から読み取れる当時の価値観について取り上げる。 ■大庭梅子の夫と息子が体現する昭和初期のエリート 梅子の夫で弁護士の徹男は、寅子たちの授業の臨時講師として登場する。穂高重親(演:小林 薫)は彼を「民事訴訟の専門家」と紹介した。いかにも知的で優しそうな雰囲気だったものの、妻である梅子を引き合いに出して貶めるような冗談を口にしたり、事あるごとに梅子を見下す発言に寅子は辟易してしまう。 その後、ハイキングの場で男子学生の口から徹男が妾を囲っていることが明かされ、梅子の口からも愛のない結婚生活について語られた。 作中で花岡悟(演:岩田剛典)をはじめとする男子学生らが口にした「ご婦人に好かれることも男の格を上げるために必要」「父、夫としての役目を果たしているなら外で息抜きしたほうが結果家庭円満になる」というのは、当時当たり前のように思われていたことである。 ここでいう「男の格」とは、社会的ステータス、より具体的にいうならその筆頭にくるのは“経済力”だ。とくに妾を囲うというのは、一夜限りの遊びや浮気と異なり、長期的に相手の生活を保障し、不自由なく過ごさせる必要が生じる。つまり、それができるだけの経済力があるということの証明なのだ。 ただし、だからと言って全て許されていたかというとそうでもない。明治初期こそ夫に妾がいることを理由に妻側が離婚を申し出ること自体が容認されていなかったが、その後旧民法第八一三条第五号で定められる「重大ナル侮辱」に妾を持つことが該当するとみなす判例も出てくるようになった。細かい部分ではあるが「妾がいること=離婚理由」ではなく「妻を多大に侮辱したこと」によって離婚が認められるというのがポイントである。それでも、作中で梅子が吐露したように、親権を得ることはできない時代だった。 さて、梅子の苦悩と後悔を煮詰めたような存在なのが、長男の大庭徹太(演:見津 賢)だ。帝国大学に通う21歳で、父と同じく弁護士になるべく育てられた。作中で語られたように、当時の帝大生といえば学力に秀でるだけでなく、家庭の経済レベルも高い憧れの存在で、将来も約束された超エリートだった。 戦前の義務教育は尋常小学校までで、その後高等教育を志す男子はまず中学校に進学する。中学校の進学率は1925年で6%しかなかった。さらに、同一世代男子の人口に占める旧制高校入学者は1 %に満たなかったという。帝大に入学できるのは原則旧制高校卒業者で、定員がほぼ同じだったことから、学科さえ選ばなければ旧制高校進学時点で帝大への進学もほぼ確約されていたという。 帝大生には文官高等試験(行政官・外交官・司法官になるための国家試験)の一部を免除されるなどの優遇措置もあり、就職後も私大卒の人間より優遇されていた。 いうなれば帝大生は同世代の男子の上位1%以下のエリート層ということになる。梅子の息子・徹太に対して明律大学の男子学生らが「スンッ」となったのには、こういう時代背景があったのである。 <参考> ■論文『近代日本における妾の法的諸問題をめぐる考察』(明治学院大学,西田信之,2017) ■論文 「旧制高等学校の入学者選抜制度改革: マッチング理論とEBPMの観点からの考察」(内閣府経済社会総合研究所『経済分析』第203号,森口千晶,2021) ■NHKドラマ・ガイド『虎に翼』(NHK出版)
歴史人編集部