前島亜美「厳しい言葉を向ける“第三者のジャッジ”が怖かった」アーティストデビューで語る“歌う決意”
声優、として活動する前島亜美が、11月20日(水)に1stアルバム「Determination」でアーティストデビューを果たす。アイドルグループの卒業後は俳優業に加え、「BanG Dream!」丸山彩役など声優業でも活躍の幅を広げてきたが、音楽活動はキャラクターソングを除けば長く途絶えていた。「怖かった」というその期間を経て、今アーティストデビューする決意。前島にとっての“歌”を聞いた。(前後編/前編) 【動画】晴天の下、清楚なワンピース姿でのびやかに歌う前島亜美 ■ファンと共通言語、共同作業者であるのが声優アーティスト ――ファンも待望といった今回のアーティストデビュー。前島さん自身はどのような思いをお持ちですか? 声優のお仕事をしていると、“声優アーティスト“の方と身近に接する機会が当然多くて。先輩だけでなく、周りの声優さんが続々とデビューして、ライブやアルバムの話をしているのを聞いていたので、自然と憧れのような気持ちは持っていました。声優業を始めたときはそういう道もあるんだなと思いましたけど、グループ活動をしていたからこそ1人で戦う大変さを知っていたし、気持ちはあってもなかなか勇気が出せなかったです。 でも、改めて自分の人生を振り返ったときに、上手い下手ではなく、 好きか嫌いかで考えると、やっぱり私は音楽が好きで、何よりステージに立つことが一番好きだったんですよね。それで今回キングレコードさんとご縁をいただいたことをきっかけに、自分の名前で、自分1人でアーティストデビューに踏み出してみようと決めました。 ――声優さんの場合、キャラクターソングを離れても“声優アーティスト”と呼ばれることが多いです。アーティストと声優アーティスト、両者は何が違うのだと思いますか? 私はグループ時代、音楽業界で生粋のアーティストである先輩方の背中をたくさん見てきました。一方で私自身はアニメが好きで、声優さんと声優アーティストが好きで、アニサマ(Animelo Summer Live)にもプライベートで足を運んだりしています。そういう風に両者を間近で見てきた感覚でいうと、声優アーティストの爆発的な吸引力ってものすごいなって。それってお客さんと共通言語でつながっていることなんじゃないのかなと思います。同じ作品を愛している。同じ物語に身を任せている。同じ熱量と同じ目線で、その瞬間を楽しんでいるみたいな感覚が声優アーティストの場合はより強い気がします。 私はアーティストの世界観に魅了されるライブも大好きですが、声優アーティストはお客さんも世界観を作る共同作業者になるみたいな。そこの一体感も含めて、素晴らしいエンタメであるというのが声優アーティストの強みなのかなって感じます。 ――共通言語、共同作業者という説明はとてもしっくりきますね。今回のアーティストデビューでは、アルバムに対してどう自己表現を行いましたか? もう、本当に戸惑いながらのスタートでした。まず取りかかったのが作詞にチャレンジしたリード曲の「Determination」。レコーディングもこの曲が最初でしたが、歌ったときに自分の素の声が分からなくなってしまって。近年はキャラクターソングしか歌ってこなかったことと、それ以前のアイドルグループでは素の自分であるとはいえ、十数人のメンバーの中で被りを避けてのキャラクター分けみたいなものがあったんですよね。 アニメが好きだったこともあり、ちょっとアニメ声っぽく歌うというのがなんとなく私の担当になっていて。となると、本当に素の声で歌ったことってもしかしたからデビューしてから15年間、なかったかもしれないんです。もちろん、一番楽な歌声というのはありますけど、それが曲調に合うか、お客さんが喜んでくださる声なのかと考えるとまた迷ってしまい、そこのバランスがとても難しかったです。 ――レコーディング時間もだいぶかかりましたか? 「Determination」だけで5、6時間かかって、もうヘロヘロでした。でもアルバムの10曲を連続してやっていくうちに、だんだん自分も知らなかった自分の声が出てくるようになって。じゃあ、この曲はキャラクターっぽくとか色々遊びを試すようになって、とても勉強になったレコーディングでした。 ■重大な責任が押し寄せてくる毎日が楽しくもあり、怖くもあり ――アルバムには全10曲を収録。完成楽曲を聴いて、客観的にどういう印象を受けましたか? 声優を始めてからキャラクターボイスとして長く使ってきたのが大きく分けて3パターンあって、それは自分でも聴き慣れている声ですが、その中間や、もっと細分化したパターンの声は聴き慣れていないので、この歌声でいいのかと懐疑的になってしまうんです。でも、ディレクションでオッケーが出たということは間違ってはいなかったんだとは思います。そういう意味では自分の好みより、周りの客観的な反応も大事にして歌ったアルバムですね。 ――確かに自分にとって聴き心地がいいものと、聴く人が心地いいものというのは違う場合がありますよね。そこに正解を見つけるのはとても難しいと思います。 こんなにも重大な選択が毎日のように押し寄せてきて、その1つ1つで結果がこうも変わってしまうということが楽しくもあり、責任重大でもあり、怖くもありましたね。それと、私はやっぱり曲の雰囲気に声質が引っ張られるんだなとは思いました。 「Determination」も力強い歌詞ではあるんですけど、希望的な音やメロディーが大きいので、超地声というよりは、明るさに満ちた声質で表現しているなと感じて。逆にどっしりした楽曲では思いきり地声で歌っている。あとで聴いてのことですけど、曲によって変わる声優アーティストっぽさがあるのかなと思いました。 ――新しい挑戦ですし、やってみて分かることが色々あったようですね。 きれいにまとめるよりもできるだけ幅を広げたいと思って。周りの意見をたくさん聞いて、少しでも新しい方へ、風通しがいい方へと選択を持っていこうとしたレコーディングでした。 ■「Determination」は過去の日記から掘り起こした自分のドラマ ――ポップな曲にバラード、コミックソング的なものと十種十色の収録曲となったアルバムです。前島さんが曲を通して大事にされていることはなんでしょう? ディレクターさんと相談してではありますが、一番大事にしたい、ブレたくないところはドラマ性です。かわいいキラキラした曲でも、格好いい曲でも、そのジャンルを歌うだけでなく、人間として今どういうことを感じているのか、人生のどういった場面なのか、これまでをどう生きてきて、だからこれから歌いたい歌はこうなんです、という部分です。 ライブにしても演劇的というか、喜怒哀楽、起承転結のストーリー性を感じさせてくれる構成が好きなので、その瞬間瞬間の人間的な面を大事にしたいと思っています。なので、音楽性もこれと決めず、その時々に合った曲作りをしたいと思っています。 ――今回のアルバムでは「Determination」と「Azurite」の2曲で作詞をしています。作詞は初挑戦ですが、ワードチョイスやインスピレーションはどう得ていったのでしょうか? これこそもう、何をどうすればいいんだろうっていう感じでした。最初は本当に立ち尽くして、それでまず始めたのが、ここ数年の日記を全て読み返すことです。今まで自分がどういう気持ちで歌に向き合ってきたのか。、応援してくださる皆さんへの気持ちとか、何年前のこのときはこういうことを思っていたんだな、とかを振り返って、今また心が動いた言葉を別のノートにまとめていく。そのノートに溜まった言葉から曲の筋を考えて、絶対に入れたい言葉をはめていって、最後にタイトルを付けて。それでできたのが「Determination」です。 そのとき意識したのは、絶対に“独り言”にしないこと。自分の思いだけど必ず相手が存在していて、それは過去の自分であったり、応援してくださる方々であったり。相手の顔が浮かぶ言葉になるように、というのは一番意識した点です。 あとはスタートでありながら、いつどのタイミングで歌っても私自身が背中を押されるような曲に。これを聴けば初心に返れるような、何年経っても大切に歌える曲にしたいという思いで歌詞を書きました。 ――自分を元気づけたいけど、お客さんにも元気になってほしいというか。ご自分の日記から飾らない言葉を取ってきたからこそ、その両立ができたんでしょうね。 そうなのかもしれないです。他にも周りにいてくださる方々、今支えてくださっている方々からいただいた嬉しかった言葉というのも入っていて、アウトロにある「辿り着ける どこまでも」という一節は、今まさにお世話になっている事務所の方々と話していたときにかけられた言葉なんですよ。 これまでのことから、どこにいくかは全て地続き。最終的にどこに辿り着くかに意味があると思うよ、というお話にすごく心を打たれたんですよね。それでこのワードを最後に持ってきたんです。何気ない言葉1つでも、けっこう思いを込めて書けたかなと思います。 ■アーティストカラーにした“白群”はファンに寄り添う気持ちの色 ――もう1つの作詞曲「Azurite」はどうでしたか? Azurite(アズライト)は石の名前で、和名だと藍銅鉱。これを砕いて作る岩絵の具の色を白群といいます。水色に近い青色で、私、こういう色が昔から好きなんですよね。以前に出した「白群」という写真集もそこから取っていて、自分にアーティストカラーを付けるならやっぱりこの色だなって。ライブのとき、水色のサイリウムで照らしていただけたら嬉しいなと思って書いた詞です。 ――アルバムの10曲目、締めに置かれた曲ですね。 本当に10曲目(10番目)にできた曲なんです。「Determination」はアルバム制作が始まる前の、旅が始まるという心境で書いた曲ですけど、「Azurite」は9曲完成させて、いよいよファーストライブに向かって、そしてそこから長いアーティストとしての旅路が始まるという対の思いを込めています。それを応援してくださるファンの方1人1人に向けた思いでもあるという。 曲名を白群ではなく「Azurite」にしたのもそういうことで、白群を作る1人1人のアズライトという原石…ファンの皆さんに寄り添いたいという思いで書いていて、サビの追っかけ部分は一緒に歌っていただけたら嬉しいなと思います。 ■第三者のジャッジが怖くて勇気が出なかった ――アイドル、俳優、声優、執筆と色々な形で表現に挑戦してきた前島さんにとって、“歌”とはどういう位置づけのものですか? 歌は、すごく大好きなもの。演劇の仕事をメインにしていた時期も、たまに音楽ライブに行くとその爆発力というか、圧倒的な華やかさみたいなものにいつも心を打たれて、この人を引きつける力ってなんだろうなと思っていました。 やっぱり私の活動のルーツは音楽、歌って踊ること、ステージに立つことなので、スポットライトを浴びて歌う感覚を忘れられなかったんでしょうね。グループを卒業したときに、もう一生ステージに立つことはないんだろうなと思っていたら、キャラクターソングというまさかの角度でステージに立つという。 ――歌と、縁の切れない人生ですね。 でも、心のどこかで自分の歌声に100パーセント前向きになれなかったというか。けっこう厳しいお言葉をいただくことも多かったので、そういう第三者のジャッジによって、私は良いとされない領域なのかなと勝手に思い込んでいたんです。 その気持ちを変えてくれたのが、藤井隆さんのライブです。とにかく音楽が好きで、お客さんとこの気持ちを共有したい。今がめっちゃ楽しいみたいな前向きなパワーがすごく心に響いてきて、そういえば私も以前はただただ歌が好きなだけだったと思い出したんです。 それでもジャッジに対する恐怖心や自信の持てなささは頑固なものでしたけど、私の歌を好き、聴きたいと言ってくださる方々がいるのなら、それに応えたいと思ってアルバムのタイトル通りに「決意(Determination)」をして、アーティストデビューすることを決めました。 今年に入ってからもう一度ボイトレに通い出して、とことん歌を磨く決意でここまで来て、少しずつですが変化も感じ取れてきたところです。今15年経って、改めてまた歌を好きになれてきているなと思います。