中小企業の「値上げ」戦略…「業種別平均限界利益率」等を目標指標とする「適正価格」の設定パターン【コンサルタントが解説】
中小企業経営者にとって頭が痛い「値上げ」の問題。ここでは、「業種別平均限界利益率」等の指標を目標指標とする場合の適正価格の設定方法について、具体例を用いて解説します。本記事では、中小企業の業績改善を手掛けるコンサルタント、北島大輔氏の著書『中小企業の「値上げ」入門』(あさ出版)より一部を抜粋・再編集したものです。 【早見表】年収別「会社員の手取り額」
利益回復か、経営改善か
製品別限界利益の考え方をベースにして、適正価格の設定方法をご紹介していきます。 価格設定を随時見直しする場合は(1)の方法を用い、抜本的な経営改善を行う場合は(2)の方法を選択します。 (1)製造コスト上昇分を価格へ転嫁する場合の適正価格の設定方法 ⅰ)変動費上昇分を価格転嫁 原材料費や燃料費等の上昇時には変動費上昇分の価格転嫁を検討。 ⅱ)固定費上昇分を価格転嫁 賃上げ等固定費の上昇時にはこちらの方法で価格転嫁を検討。 (2)「業種別平均限界利益率」等の指標を目標指標とする場合の適正価格の設定方法 「(1)製造コスト上昇分を価格へ転嫁する場合の適正価格の設定方法」については、前回の記事『 中小企業の「値上げ」戦略…製造コスト上昇分を価格へ転嫁する「適正価格」の設定パターン 』で紹介しました。 ここでは、「(2)「業種別平均限界利益率」等の指標を目標指標とする場合の適正価格の設定方法」について見ていきます。
製造コスト上昇分を価格転嫁する場合の適正価格の設定方法
【その2-1】 固定費の価格転嫁 ここでは、固定費上昇が上昇した場合の価格転嫁の考え方を見ていきたいと思います。 〈STEP1 製品別限界利益及び全社営業利益の現状把握〉 こちらも事例で見ていきます。 固定費上昇前の製品aの変動損益の状況です。 固定費の価格転嫁は、変動費と比べると少し複雑になりますが、賃上げ分などの価格転嫁を行う場合、こちらも社内で検討できるようにしておくべきです。 まずシンプルに製品を1種類のみ製造している企業を例にしたいと思います。 月次の変動損益を見ると限界利益が5,000,000円、固定費が4,500,000円、営業利益が500,000円、営業利益率が5%となっています([図表8])。 賃上げ等により、固定費が300,000円増加し4,800,000円となりました。営業利益は200,000円に減少し、同様に営業利益率も5%から2%に落ちてきます([図表9])。 〈STEP2 固定費の価格転嫁 ~最低妥結価格の設定~〉 固定費の価格転嫁の場合は、限界利益ではなく営業利益に着目します。 最低妥結価格は、営業利益額を回復させるために必要な価格を設定します。 ここでは最低妥結価格を10,300円に設定することで、固定費上昇前の営業利益額の水準500,000円に回復させます。 〈STEP3 固定費の価格転嫁 ~目標販売価格の設定~〉 目標販売価格は、固定費上昇前の営業利益率を回復させるために必要な価格を設定します。 目標販売価格を10,320円に設定することで、営業利益率を固定費上昇前の5%に回復させます。 製品aの最低妥結価格と目標販売価格が算出されました。 これらの根拠を持って10,000円の販売価格を10,300円~10,320円の間で、得意先と固定費転嫁のための値上げ(価格転嫁)交渉に臨むことになります。 その2-2 固定費の価格転嫁(複数製品) さて、ここまでシンプルに製品を1種類のみ、製造販売している企業を例として見てきましたが、次は複数の製品を製造販売している場合の、固定費上昇分の価格転嫁の方法を見ていきます。 変動費のみの変化であれば、製品ごとの限界利益額や率に着目して価格設定をしていけばいいのですが、固定費の場合は各製品に複雑にからみ合います。 そこで固定費上昇分を、各種製品の販売価格に乗せていくという作業が必要になってきます。 ●製品を複数製造している企業の固定費上昇分を価格転嫁する では事例を見ていきましょう。 この会社は製品を3種類製造しており、固定費増加前の損益状況は[図表12]の状況となっています。 会社全体では固定費が12,500,000円かかっており営業利益は1,000,000円、営業利益率は3.1%となっています。 賃上げ等により、固定費が2,000,000円増加し14,500,000円となり、営業利益がマイナスとなってしまいました[図表13]。 固定費上昇による赤字を回復させるために、価格転嫁の値上げ交渉を行います。そこで最低妥結価格を設定しました。 最低妥結価格で交渉に成功すれば、固定費上昇による赤字は回避することができます。しかし、営業利益率は元に戻りません。 最低妥結価格の設定では、営業利益額の維持に必要な価格転嫁を行いました。 ここでは単純に、価格転嫁前の製品別限界利益を配賦基準として、各製品に固定費上昇分を負担させる考え方で、各製品に価格転嫁しています。 結果、製品aの最低妥結価格10,741円、製品bの最低妥結価格12,741円、製品cの最低妥結価格11,019円となりました。 製品の相場情報や、製品の優位性等の価格設定の判断に使える情報があれば、製品別に価格転嫁額を変えることもできます。 ●目標販売価格の基準は営業利益率の回復 目標販売価格は、全社の営業利益率を固定費増加前の水準の3.1%に回復させる価格に設定します。 最低妥結価格の設定と違い有効な配賦方法がありませんので、最低妥結価格を下限とし各製品の価格を調整することで、営業利益率を回復させる価格を設定します。 今回、目標販売価格をそれぞれ製品a10,750円、製品b12,760円、製品c11,060円と設定することで営業利益率を固定費増加前の水準に回復させます。 〈固定費上昇時の製品a・b・cの価格転嫁交渉は次の3つ〉 (1)製品a 当初販売価格10,000円を10,741円~10,750円の間で価格交渉 (2)製品b 当初販売価格12,000円を12,741円~12,760円の間で価格交渉 (3)製品c 当初販売価格10,500円を11,019円~11,060円の間で価格交渉 北島 大輔 株式会社 新経営サービス 人材開発・経営支援部 シニアコンサルタント
北島 大輔
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