AIタレントが芸能界に及ぼす影響とは? AI×広告の仕掛け人が語る“広告の未来”
昨今、広告でのAI活用が活発化している。2023年10月には、パルコが画像生成AIを駆使したファッション広告「HAPPY HOLIDAYSキャンペーン」を制作・公開した。実際の撮影は行わず、グラフィック・ムービー・ナレーション・音楽全てを最先端の生成AIにて制作したこの広告は多くの注目を集めた。 【写真】二宮功太の撮り下ろしカット このような急激な変化により、広告制作におけるタレントの起用や広告制作現場はどう変化していくのか? 疑問が湧いてくる。 そこで、今回は株式会社Cyber AI Productions・代表取締役社長として、AIを駆使した先駆的に広告制作を行う二宮功太氏に、AIの登場により、広告の未来はどう変化するのか? またサイバーエージェントが有する国内最大級かつ広告効果最大化の追求に特化したクリエイティブ制作スタジオ「極AIお台場スタジオ」での広告制作の現状について語ってもらった。 ・「極AIお台場スタジオ」は、広告会社だからこその“広告特化型スタジオ” ーー二宮さんがサイバーエージェント入社から、株式会社6秒企画の代表を経て、株式会社Cyber AI Productionsに携わるまでの経緯と、お仕事の内容を教えてください。 二宮: 2004年サイバーエージェントに入社後、クリエイティブのプランナーやディレクターを務めていました。当時のサイバーエージェントには制作機能はなかったので、外部のプロダクションやパートナー企業に制作をしていただいていたんです。次第にインターネットが発展してきたことで、その広告効果を分析するためにそれぞれのメディアの特性に最適化したクリエイティブ制作の必要性が出てきました。 このタイミングで社内に制作機能を新設し、4年前の2019年に子会社である株式会社6秒企画を立ち上げました。同じ頃、主に画像・写真を扱うCa Design社と、3DCGを扱うCyberHuman Productions社も生まれており、そして今年2023年9月に3社が合併し、動画制作からAIや3DCG、バーチャルプロダクションなど最先端技術を活用した広告クリエイティブ企画・制作までをワンストップで手掛ける株式会社Cyber AI Productionsが誕生しました。 ーー3社を合併させる意思決定には、どのような背景があったんですか? 二宮:社内に制作機能を有するプロダクションやクライアント企業が増えてきたことは大きかったと思います。インターネットがナンバーワンメディアになったことで、よりスピーディーにクリエイティブを作らないといけない、とみんなが気づき始めている。そんななかで僕らは、より効率的でシームレスな制作体制を整えるべきだと考えました。 「極AIお台場スタジオ」と名付けた本スタジオは、広告のクリエイティブ制作に特化しており、広告効果を最も出すことを目的として作られています。徹底的に効果に向き合い、“広告効果を予測しながら撮影をする”ところがコンセプトであり強みです。 ーー制作会社から生まれた広告会社ではなくて、広告会社から生まれた制作会社、という順番ですね。広告が前提にあるスタジオは珍しいと感じます。 二宮:おそらく国内では初ですし、海外でも事例は多くないと思います。 ーーインターネット広告を制作するにおいて、“スピーディーで効率的”であることを特に重視されているのはなぜでしょうか? 二宮:インターネット広告の最大の特徴はターゲティングができる点ですが、そうなるとターゲットごとに異なるクリエイティブを多種多様なパターンで作る必要があるため必然的に制作量が増えます。広告効果を高めるためにも、スピーディーで効率的に、多種多様かつ大量のクリエイティブを短期間で行えるスタジオであることは重要なんです。 ーー「極AIお台場スタジオ」の前身であるスタジオの誕生は2020年と、近年のAIブームに先駆けて設立されていますよね。早い段階からAIに着手していたのは、どういった背景からなんですか? 二宮:サイバーエージェントがAIをいち早く取り入れることができているのは、ダイレクトマーケティングのお客様が多かったことです。僕らのクライアント企業は大きく2つに分けられまして、1つはダイレクト広告系のお客様、もう一方はテレビCMなどをメインとしているブランド広告系のお客様です。ダイレクト広告系は圧倒的な広告効果を求められますから、クリエイティブの負担も大きかったため、早い段階でAIを取り入れる必要がありました。 コロナ禍以降、生成AIに人的・金銭的資本がしっかり投下され始め、特にこの1年は進化のスピードがぐんと上がっています。ダイレクト広告系のお客様から始まった、当社の提供する事前に広告配信効果を予測する「極予測AI」も、いよいよブランド広告領域のお客様にも活用いただけるフェーズになってきています。 ーー他よりも早く生成AIの活用に取り組んでこられて、世間より2歩も3歩も先をいくような感覚なのではないでしょうか? 二宮:2、3歩先をいくと、世間がついてこないんですよ。感覚的にはおそらく半歩先、1歩先ぐらいがちょうどいいんじゃないかな。先端を行き過ぎると、むしろ時代と合っていないように感じられて、クライアント企業のみなさまが採用を躊躇してしまうんです。 ーー広告会社ならではのジレンマですね。研究の段階ではここまで進んでいるけれども、実践投入ではここまで、といった調節にも二宮さんは関わっているんですか? 二宮:そうですね。定期的に研究チームからの進捗共有会があるので、なにができるようになったかはある程度把握しています。そのなかで気をつけているのは、目先の実用性だけを追い求めないことです。広告案件を担当する現場社員は、どうしてもいますぐ使える実用的なものを求めます。でも我々にはより大きいゴールがあり、そこに到達するための基礎研究は、実用性とは相いれない部分があるので、研究チームが基礎研究に取り組めるよう、制作側とは適切な距離を保っています。 ・AIタレントの活用で進むのは、生身のタレント間の“格差”かもしれない ーーAIタレントの領域も進化が著しいですよね。本物の人のように話したり演技をしたりするようになると、“生身のタレントはそもそも必要なのだろうか”という議論も出てくるかと思います。二宮さんはどのように考えていますか? 二宮:たしかにAIタレントは何でもできますが、生身の人間が持っている人間性や特徴があるからこそ、デジタルツインに生きると思うんです。AIでゼロから生み出したら、かわいい、かっこいい人は作れますが、なんの文脈もないじゃないですか。技術的には簡単にアイドルが作れたとしても、リアルの芸能人やタレントの仕事を奪うかというと、そうはならないと考えています。人間性や経験値を持ったタレントさんは残っていくと思いますし、反対に言うと、それがないと代替されてしまう可能性があるので、生身のタレントさんの間でも格差が生まれるかもしれませんね。 ーーなるほど。ではAIタレントを活用するにあたって、広告会社としてのメリットはどんなところですか? 二宮:我々制作サイドや代理店側のメリットでいえば、いくらでも撮り直しができること。広告効果の最大化を目指すとなれば、できるだけ多くのポーズやセリフを試す必要があります。しかしリアルなタレントさんの撮影現場では、時間の拘束があるのでなかなか難しく、その縛りが一切なくなるのはすごく大きなメリットです。 ーーでは広告会社を利用するクライアントの視点ですといかがでしょう? 二宮:クライアントサイドとしては、コスト的なメリットはあるでしょうね。実際に人が稼働する必要がなく、デジタル上でクリエイティブが作れますから。そして生成AIのタレントにはスキャンダルのリスクがないのもポイントだと思います。 ーー続いて、AIタレントのデメリットはありますか? 二宮:デメリット、どうでしょう。気になることとしては、広告が届けられる側、つまりユーザーがどういう気持ちになるのか、というところですね。いまだとまだAIらしきクリエイティブを見たときに、“これはAIだな”と認識できますが、そのうち判別がつかないくらいまで質が向上し、AIで生成された存在しないタレントたちがどんどん表示されるようになる。しかもユーザー1人1人に最適化されるため、自分が好きなものだけ見られるわけです。そうやってリアルかAIかわからないものが当たり前に世にあふれている状態になったときに、受け手がどんな気持ちになるのか、つねに思考していないといけないと思っています。 僕自身、AIアイドルの写真集などを見てると不思議な感覚になるんです。綺麗だな、かわいいなと思う一方で、この人は実際には存在しないんだよな、と思うわけです。この感情はこれからどこへ向かっていくんでしょうね。デジタルツイン化されて人格を持つとしたら、ほぼ人間と変わらないので受け入れられていくのか、それとも虚しい気持ちになるのか。この分野の面白いところですね。SF映画の世界がすぐそこまで来ていると感じます。 ・生成AIは相棒か敵か 2024年はクリエイターのスタンスに注目 ーー最近では大手企業による生成AIの活用事例が多く見られるようになりましたが、これは一過性のムーブメントなのか、それとも今後定着していくか、二宮さんはどう考えていますか? 二宮:後者だと考えています。いまはまだAIの活用そのものに驚きがありますが、1~2年後には物珍しさもなくなって、当たり前に浸透していると思います。その中で重要なのが“企画性”ではないでしょうか。いまは技術への関心が高いですが、次のフェーズでは、AIをつかってどうおもしろいクリエイティブに昇華していくかがポイントですね。 ーー2024年以降で注目のトピックはありますか? 二宮:クリエイターたちの動向は気になりますね。AIを相棒として味方につけるのか、抗って敵と見なしてしまうのか。来年はそこがよりはっきりわかれる年になるのではないでしょうか。アメリカでは生成AIの開発に人的・金銭的リソースがどんどん投入されているので、取り入れるか抗うかにかかわらず、嫌でも進化してしまいます。それをいち早く相棒につけられるクリエイターが注目を浴びるようになると思います。 ーー相棒以上のものになる可能性はあると思いますか? 二宮:技術的には、5~10年後には、人がいなくても広告が作れるようになっていると思います。AIがどこまで学習能力を高められるかがポイントですね。広告はトレンドや時代的な文脈、文化背景を取り入れて制作するのですが、そこまでAIが学んでクリエイティブが作れるようになったら、我々は失業です(笑)。そうなったら、人間は他の生産的な活動に移るんでしょうね。 ただその時がいつ来るかを予測するのは、なかなか難しいです。マイクロソフトやGoogleといったビッグテックが、莫大な投資をして次々に新しいものをリリースするので、先読みしづらくて。いまできることは、最新の動向を追って、実際に触れて、小さくても実戦導入をして、進化に着いていくことだと思っています。
取材=中村拓海/構成=堀口佐知