【大研究】球団関係者たちに総力取材して分かった独走の理由…「今年のソフトバンクが強すぎるって!」
「5点まではいいよ」 開幕してしばらく経ったある日、今季からチームメートとなった同学年の山川穂高(ほたか)(32)が、主力投手の石川柊太(32)にこう声をかけた。 【画像】貯金18の猛ダッシュ!絶好調の「ソフトバンク選手たち」ド迫力プレー写真 「冗談っぽくでしたし、実際にやれるかどうかはともかく……かなり気持ちが楽になりました。これまで山川とはあまり接点はなかったけど、実際に触れあってみると、頼もしさを感じますね」 後日、石川が周囲に語った感想に、今季のソフトバンクの強さが詰まっている。 開幕から50試合が経過した6月2日時点で貯金18という猛ダッシュ。チーム打率もチーム本塁打数も、チーム防御率もすべてリーグ1位という圧倒的な強さで首位を独走するソフトバンク打線の中心にいるのが、ホームランと打点で目下、パ・リーグ二冠王の山川である。 「柳田悠岐(35)、近藤健介(30)、そして栗原陵矢(27)とソフトバンクは主軸が左ばかりでした。そこにホームラン王や打点王を狙える右の大砲が加わったのは大きい。しっかりした4番が入ったことで、前後を打つ柳田、近藤らがさらに機能するようになった。出塁率がグンと上がったのです。批判覚悟で山川を獲りにいったフロントの勝利ですね」(球団OBで解説者の池田親興氏) 女性問題を機に西武からFAとなっていた山川の獲得には、球団内外から反対する声が上がっていた。そこを「絶対に獲れ!」と押し切ったのが、王貞治会長(84)だった。生来の負けず嫌いと、愛弟子である小久保裕紀監督(52)の門出をバックアップしたいという親心による″賭け″だった。 スポーツ紙鷹番記者が打ち明ける。 「通常であれば、優勝がかかった大事な試合に出される報奨金――活躍した選手に進呈される賞金が、今季は開幕から出ているそうです。額も凄くて、1試合で500万円も出ているんだとか……」 V奪回へ向けて腹を括っているのは、指揮官も同じ。「山川の起用に覚悟が見て取れる」とベテラン記者は言う。 「ある意味、厄介者だった山川を小久保は4番に据えた。しかも、開幕からしばらくは2割ソコソコの低打率だったのに使い続けた。現役時代の小久保は短気で有名。ルーキーが挨拶に来ないだけで、高校の先輩を呼びつけて説教するほどキレていたことを思えば、意外でした」 このベテラン記者の「小久保監督の人間的成長がチームに好影響を与えている」という意見に、スポーツライターの藤本大和氏も賛同する。 「ミーティングで『勝利の女神は細部に宿る』と話したように、隙を作らない、隙を見せない野球がモットー。それでいて、ガチガチの管理野球でもない。主力なんて放任に近い。押し引きのバランスが絶妙なんです。経営者の本を読み漁り、侍ジャパンの監督とソフトバンク2軍監督という現場を経験するなかで、小久保さんは″怒りすぎてもダメ、怒らないのもダメ″という、令和にマッチした指導法を身につけた。ミスした選手を怒鳴り散らすのではなく、球界の先輩としての考えを伝えて、丁寧に説明する。これをコーチにも徹底させています」 2軍監督時代に見ていた育成選手の川村友斗(24)、緒方理貢(りく)(25)、仲田慶介(24)らを支配下登録したことも「監督のヒット」だと前出の池田氏は評価する。 「80億円をかけてFA選手や外国人助っ人をかき集めた昨季から一転、川村ら″育成三銃士″を一軍で使ったことで若い選手たちの目の色が変わりました。しかも、川村と仲田は貴重な戦力になっており、チームに勢いをもたらしました」 今季、最も「小久保ホークス強し!」を印象づけたのは21‐0、12‐0と大差で圧倒した5月21日からの楽天2連戦だろう。楽天OBの礒部公一氏は「球団創設イヤーに26‐0で負けた試合を思い出しました」と苦笑いする。 「20点も入ったら、どうしても投手の緊張感は緩むものだし、勝ちパターンのリリーフも使わない。普通は何点か取り返されるものなのですが……0点でした。そして翌日も無失点。2戦連続で大差の完封負けというのは、なかなかないですよ。OBとしては非常に残念ですが、単純な戦力差を超えた強さを感じましたね」 その″目に見えない強さ″の正体を、礒部氏は「試合巧者であること」とした。 「勝ち方を知っている選手が多いんです。打率は低くてもここ一番で勝負強かったり、しっかり進塁打を打てたり、とにかく隙がない。ゴールデン・グラブ賞常連の今宮健太(32)や、’14年の最多安打王・中村晃(あきら)(34)とか。右手有鉤骨骨折で昨季、リハビリに明け暮れた栗原の復活も大きい。色んなポジションが守れて、チームバッティングができて、勝負強い。ああいう選手が一人いると、ベンチは助かるんですよ。彼はムードメーカーでもあるので、活躍するとチームが盛り上がる。ありがたい存在です」 その礒部氏が「序盤戦MVP」に挙げたのは斬り込み隊長の周東佑京(しゅうとううきょう)(28)だ。 「5月に入って少し打率を落としましたが、春先は3割打って、出塁率も3割9分超え。しかも両リーグ断トツの15盗塁をマークしていた。彼が塁に出ただけで相手投手は相当神経をすり減らす。そこで日本を代表する左打者の柳田と近藤、打点王の山川とで組むクリーンナップに打順が回ってくるわけですから、得点確率は高くなりますよね。ソフトバンクにいい流れが来る展開を作った、周東の貢献度は高いでしょう」 ◆″魔改造コーチ″の帰還 超強力打線に目がいきがちだが、投手陣も充実している。夕刊紙デスクは「昨オフで契約が切れたクローザーのロベルト・オスナ(29)の引き留めに成功したのは大ヒット」と分析する。 「メジャーの球団から獲得オファーが届いていたようですが、ソフトバンクはマネーゲームに勝利した。球団内部からは『球団史上最高額の年俸になったようだ』『相当な額のインセンティブがついている』なんて声が聞こえてきています」 現代野球は「後ろ(クローザー)から固めていく」のが編成のセオリー。オスナ残留は朗報だが、代償も大きかった。 「オスナと山川、投打の柱と契約するためにカネがかかりすぎた。これまで功労者を手厚くもてなしてきたソフトバンクが、森唯斗(ゆいと)(32・現DeNA)、嘉弥真(かやま)新也(34・現ヤクルト)ら年俸の高いベテランを次々と切ったのは、資金捻出のためでしょう」(球団関係者) だが、「後ろ」が固まったことは、投手陣に大きなプラスとなった。昨季のソフトバンクはリリーフ陣の防御率がリーグトップである一方、先発陣が投げたイニング数はリーグワースト。課題だった先発強化のため、リリーフからリバン・モイネロ(28)と大津亮介(25)を先発転向させることができたのである。 「モイネロは僕が楽天の1軍打撃コーチをしていた’17年に来日。当時から『先発させても面白いな』って話していたんですけど、実際、しっかり勝っている。若いし、素晴らしい。大津もうまくローテで回っているし、今季はエースの有原航平(31)も好調。160㎞/hを投げるスチュワート・ジュニア(24)もいて、東浜巨(なお)(33)も復調。充実していますよ」(前出の礒部氏) 彼らの後を受けるのが、オスナが一番後ろに控える強力ブルペン陣なのだが、ここにも課題はあった。 1軍投手コーチを務めた斉藤和巳・4軍監督(46)が本誌インタビュー(’23年12月29日号)で指摘しているように、リリーフ陣のコンディション管理――首脳陣によるマネジメントが昨季のソフトバンクには欠けていたのである。 だが、小久保監督はすでに手を打っていた。昨年まで2年間、米大リーグ・レンジャーズでコーチ経験を積んだ倉野信次投手コーチ(49)の入閣である。 数年前、ソフトバンクに150㎞/h超のスピードボールを投げる豪速球投手が続々と誕生した時期があった。その立て役者が、倉野投手コーチだった。 「その手腕は″倉野の魔改造″と激賞されました。復帰に際して倉野コーチは『メジャーで2年間、自分自身を″魔改造″して帰ってきました』とコメント。アメリカの最先端の技術、コーチングと日本式の指導をミックスさせればメジャーリーガーを超える投手を育成できるのではないか、とも言った。口癖は『今じゃない』。先を見据えて、何十通りもの投手起用のシミュレーションをしながら戦っているようです。登板過多を避け、年間通じてベストなパフォーマンスを発揮できるよう、たとえば先発ローテを従来の5人制にこだわらず8人で回すなど、大胆な施策を打ち出しています」(球団関係者) 前出の藤本氏は「見逃されがちですが、海野隆司(26)を積極的に起用していることに注目している」と言う。 「ソフトバンクの正妻は甲斐拓也(31)。侍ジャパンでも正捕手を務めた絶対的存在ゆえ、甲斐の配球が読まれていたり、偏っていたりしても、誰も何も言えなくなっていた。若い投手ならなおさらです。そこに首脳陣はメスを入れた。ベンチを温めることで甲斐にも学びはある」 順調に行けば今オフ、甲斐はFA権を手にする。正捕手流出のリスクヘッジの意味もあるだろう。 不安材料があるとすれば――OBや番記者らは「中軸の故障」と声を揃えた。5月31日、柳田が右足を負傷して戦線離脱するというアクシデントがチームを襲ったが、代打に回っていたクラッチヒッター、中村がカバー。セ・リーグ首位だった広島に3連勝した。藤本氏が続ける。 「選手層の厚さを見せつけましたね。それでも敢えて危惧すべき点を挙げるとすれば……小久保さんの勝負運ですかね。侍ジャパンを率いていた際、プレミア12の準決勝の韓国戦で9回に3点リードをひっくり返されて負けていますし、自身の引退試合では、まさかのノーヒットノーランを喰らっています。『これまで一回も経験したことないのに、引退の日にありえんで。俺も持ってるわ』と苦笑いしていましたが(笑)」 肝心な時にやらかしていたのは、過去の話。そこから大きく成長した指揮官が率いるソフトバンクに、死角は見当たらない。 『FRIDAY』2024年6月21日号より
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