若いアイデア 遠野和紙守れ 福島県いわき市の楮(こうぞ)保存会✕会津大短期大学部 ポーチや装飾品制作
福島県いわき市遠野町の「伝統工芸遠野和紙・楮(こうぞ)保存会」は伝統技術と若者のアイデアを融合し、遠野和紙のブランド力アップに取り組み始めた。協力するのはデザインを専攻する会津大短期大学部産業情報学科の学生。和紙の透き通るような美しさや、丈夫で染色しやすい特長を生かし、ポーチやペーパーフラワー、アクセサリーなどの雑貨を制作した。生産者の高齢化が進む中、担い手不足の解消と技術の継承を目指す。 県の伝統的工芸品に指定されている遠野和紙は約400年以上の歴史があるとされる。明治20年代ごろの最盛期には400軒ほどの農家が、冬の副業として携わっていた。しかし洋紙普及の影響で職人は減り、2010(平成22)年に最後の職人が廃業。2022(令和4)年に住民有志でつくる保存会が設立され、地域の伝統を守ろうと活動している。 現在、保存会のメンバーは18人。平均年齢は約70歳と高齢化している。認知度不足も課題の一つだ。遠野和紙は市内の一部の小中高で卒業証書として使う他には、注文を受けて生産・販売するなど活用が限られていた。
「このままでは地域の宝が消えてしまう」。危機感を募らせた会長の高木忠行さん(69)たちは新たな需要を掘り起こす手だてを考えた。ひらめいたのは、数年前から交流があった会津大短期大学部の沈得正講師(39)のゼミとの連携だった。学生からアイデアの提供を受けられる県の「大学生の力を活用した集落復興支援事業」に互いに登録し、今年度から活動を本格化させた。 ゼミ生6人が4月から活動を始めた。遠野和紙の制作工程を見学したり、会員から話を聞いたりして構想を練った。作業の難易度がそれほど高くなく、事業化できるかどうかを重視した。思い至ったのが、和紙と布を組み合わせたポーチやペンケース、テーブルライトやアクセサリー。地元の楮やトロロアオイなど素材にこだわった遠野和紙ならではの美しさや破れにくさに着目した。 11月末には学生が再び遠野町を訪れ、保存会のメンバーに試作品を披露した。高木さんは「これまで考えたことがない使い方ばかりで新鮮だった」と印象を語る。12月15日に開かれた地区の催しでは、学生のアイデアを参考に保存会のメンバーが制作したポーチや名刺入れなど約20点を500~千円程度で販売。来場者からも好評を得た。
ゼミは来年度以降、遠野地区のイベントでの商品販売や子ども向けのワークショップ開催などを検討している。栗城美胡琴さん(20)=2年=は卒業研究の一環として、和紙雑貨のブランド「紙日和(かみびより)」を提案した。「若い世代にも手に取ってもらえる商品を作り、遠野和紙を知るきっかけになればうれしい」と願う。高木さんは「新たな需要を生み出すことで、担い手確保につなげたい」と意気込んでいる。