『海に眠るダイヤモンド』の物語は“私たち”に続いていく 野木亜紀子が描ききった罪と愛
朝子(杉咲花)と端島への愛がつまった晩年の鉄平(神木隆之介)の家
最後にいづみは、鉄平の晩年の家に辿りつく。端島が見えて、一面の秋桜が咲き誇る家だった。それはまるで、「もろともにあはれと思へ山桜 花よりほかに知る人もなし」を思い起こさせる。その場所は、懸命に「今」を生きた朝子/いづみにとっては「あの時置いてきた過去との再会」というギフトのようで、生涯過去と、あったかもしれない朝子との未来を思うことでしか生きることのできなかった鉄平の孤独を示したものでもあった。 リナもまた、当面の間、進平の亡き妻・栄子(佐藤めぐみ)の名前を名乗ってその後の人生を生きていく。ある意味死者である栄子に生かされたと言える。回想でしか描かれなかった栄子の存在も印象的だ。進平は亡くなる前、一酸化炭素中毒で栄子の幻影を見る。それは小鉄(若林時英)を殺した罪に対する罰であるとともに、ある意味それは「忘れたこと」の罰のようにも見える。第5話において、それまで栄子の死を受け入れることができなかった彼は、リナと愛した人を亡くした思いを共有したことで「栄子は死んだ」ことをようやく認めることができた。 同時に「もう誰も愛さない」と誓いを立てるように2人で酒を飲んだリナと進平は、その後すぐに起こる小鉄の事件をきっかけに深く愛し合い、直ちに誓いを破ることになる。「高層階の子どもたちが見てた」「病院の上階から見た人がいた」と伝播されていった栄子の死と「鉄平とリナの駆け落ち」。信じがたいその事実をなんとか受け入れることで、止まってしまった時計の針を動かしていった進平と朝子もまた同じだ。前後際断。人々は何かを切り離すことでしか、前に進めない。仕方がない。それでも、今だけを見つめて前へ前へと進んできた人々が、忘れてきたものを、その罪を、愛を、『海に眠るダイヤモンド』は痛みと輝きとともに浮かび上がらせるドラマだった。
藤原奈緒