「病院が廃業を余儀なくされたケースも」「薬剤師にとって大問題」 マイナ保険証に医療業界からクレームの声が続出
「薬剤師にとって大問題」
保険薬局は、翌月10日までに患者のひと月分のデータをまとめ、社会保険診療報酬支払基金や国民健康保険団体連合会に調剤報酬の保険者負担分を請求する。従って、 「マイナ保険証によって確認できるレセプト情報にはタイムラグが生じてしまうのです。患者さんの直近の薬での飲み合わせや重複投与の有無を確認できず、これは薬剤師にとって大問題です」(永田氏) そのため、紙の「お薬手帳」が重宝されているという。デジタル全盛の折、アナログが患者と薬剤師とをつなぐ“命綱”になるのだから実に皮肉である。
「病院が廃業を余儀なくされたケースも」
こうした欠陥だらけの「新制度」は現場の医師にとって看過し難いに違いない。実際に昨年2月には、東京都の保険医ら274人が国を相手取り、 〈マイナ保険証利用のためのオンラインシステム導入を医療機関に義務付けたのは違法である〉 として東京地裁に提訴。最終的に原告は1415人となっている。裁判は今年9月19日に結審し、11月28日に判決が下される予定。原告団団長の須田昭夫・東京保険医協会会長が言う。 「9月19日の口頭弁論では国に対して反論する機会もあったのですが、12月2日までに判決が欲しかったので、結審を選びました。この裁判は、マイナカードと健康保険証を連結し、カードがないと保険証を持てない状態を作ろうとしていることへの抗議であり、最大の目的は現行の保険証を存続させることにあります」 さらに続けて、 「オンラインによる資格確認自体は、券面の番号を打ち込めば現行の保険証でも可能です。それなのに国はカードリーダーなど、マイナ保険証のための設備を整える義務を医療機関に課している。こうした負担によって廃業を余儀なくされたケースもあるのです」
「保険制度に大混乱が」
いわば“医療崩壊”を招きかねない制度でもあるのだ。『マイナ保険証の罠』の著者でもある経済ジャーナリストの荻原博子氏は、 「心配されるのは、5年というマイナ保険証の有効期限が切れる時です。現行のように新しい保険証が送られてくるわけではなく、自身で更新しなければなりません。病気をしない若者などは期限を気に留めていないでしょうし、また高齢者にとっても難しい作業だと思います。保険制度に大混乱が生じかねません」 としながら、こう断じる。 「病院の窓口で不便な思いをした患者さんはすでに多くいるでしょうし、更新時期になればそうした人はさらに増えます。マイナ保険証は、少なからぬ国民に『デジタルは面倒臭い』という意識を植え付けてしまうのです」 国のもくろみとは裏腹に、医療DXの進展を自ら妨げてしまったというわけだ。 前編【マイナ保険証を解除させないために手続きを煩雑化? 自治体も「もう少しはっきりしてほしい」と苦言】では、マイナ保険証の利用登録解除の手続きが煩雑であり、さらに自治体への連絡もずさんなことからくる混乱などについて報じている。 「週刊新潮」2024年11月7日号 掲載
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