大谷翔平のMLB開幕戦はなぜ韓国開催? そこに至る経緯と韓国側の受け入れ体制が整った事情
【以前は収益化の見込みが低かった】 一方で、韓国側にとっても今回の開催は念願が叶うものでもあった。「韓国側も開催に無理のない状況が整った」というのが実際のところだ。 問題点は「収益化の見込みが低い」ということだった。 まずドーム球場がなかった。雨天中止のリスクがある限り、誘致の企画すら立てづらい。また球場キャパシティの問題もあった。ソウル・釜山・大邱の大都市にある球場はいずれも収容約2万5000人規模で、チケット代を上げてもキャパシティの問題から収益を得にくい構造にあった。 2015年にオープンした今回の会場・高尺(コチョク)スカイドームも、その問題をすぐには解決しなかった。2022年10月6日、史上初の試みとしてメジャーリーグ選抜の招待を発表。11月にこのソウルのドーム球場と釜山の球場でKBO(韓国リーグ)選抜と対戦するイベントだったが、23日後に韓国側からこれをキャンセルするという事態があった。 「チケットが半分くらいしか売れなかったのです。3つ問題がありました。一つ目はチケット代が高く、韓国人の消費感覚には合わなかったこと。当時は最高値の席が35万ウォン(当時約3万6000円)でした。 二つ目は高尺スカイドームのキャパシティ。通常時には約1万7000人とやはり少ない。チケット代を上げるしかなかった。 三つ目は韓国の野球ファンの目が肥えていた点です。当時のオールスターチームにはサルバドール・ペレス(ロイヤルズ)くらいしかスター選手がいなかった」(チェ氏)
【MLBの認知度アップで大きく変化】 しかし、あれから1年半が経ち、韓国内の状況も変わった。 「動画サブスク(韓国ではOTTという)文化の発展ですよ。ユーザーが増えているので、企業側も『MLBなどスポーツコンテンツに資金を投じる価値がある』と判断し始めています。今回もMLB側が韓国に代理店を置き、Coupang Playという国内の動画サブスク企業がパートナーとして加わっています。試合中継などのコンテンツを作って、加入者を満足させようというものです。韓国側にも『お金の出し手』ができたというところです」(チェ氏) そういった「好循環」のなかでも、今オフの大谷翔平のドジャース加入は、「うれしいハプニング」でもあった。チケット代は最高70万ウォン(約7万7000円)だが、チケットは8分でソールドアウトとなった。 「大谷を日本人かどうかで見ているのではなく、真のメジャーリーグのスターだと見ている証です。韓国内の広告代理店と話をしたことがあるのですが、もし大谷が韓国で何かの広告に出演したのなら、ギャランティは『国内でもトップクラス』と話していたくらいです」(チェ氏) 日本でのドジャース戦開催機会があるとすれば、来年以降か。
吉崎エイジーニョ●取材・文