システムエンジニアと親和性が高い農業「スマートアグリカルチャー」とは?
東名高速道路・遠州豊田PA(静岡県磐田市)に隣接する茶畑が点在する地域に、大型のハウスがいくつも並んでいる一帯がある。富士通などが出資し昨年4月からスタートしたICT(情報通信技術)を駆使した農業、スマートアグリカルチャー事業の現場だ。間もなく開始1年になる同事業の現場を取材した。
富士通とオリックス、増田採種場の3社は、昨年4月に株式会社スマートアグリカルチャー磐田を共同出資で設立、静岡県磐田市でICTを活用した大規模農業に取り組んでいる。なぜ、磐田市なのか? 実は磐田市は本州で日照時間が一番長いのだそうだ。そうした気象条件に加え、磐田市がタテ割り対応でなく、窓口を設けて同事業をバックアップする態勢を整えたことが大きいという。 取材で最初に紹介されたのが、昨年11月からスタートし、現在、試験栽培中という水耕葉物ハウス。0.7haの敷地でパクチー、ホウレンソウ、クレソンを栽培ベッドを使って育てている。「栽培ベッドには1度の傾斜がついていて、流した水をポンプで循環させています」とスマートアグリカルチャー磐田生産部長の野口雄理氏。ハウスの中は、空気がゆったりと流れているような暑くもなく、寒くもない快適な環境。「センサーで温度や湿度、日射データ、室内外の風向・風速を観測している」と同社専務の伊藤勝敏氏は話す。データは手元のスマートフォンで常時確認できる。また、データに応じて空調やカーテンなどが自動制御され、ハウス内の環境を人手をかけることなく一定に保っている。
夏場は日射量などによって、植物に病気が発生するケースもあるが、その際は病気が発生した時の日射量データを分析し、ハウス内が夏場の栽培により適した環境になるように設定する。その後は自動制御によって環境が保たれる。得られたデータは、富士通の環境制御用システム「食・クラウドAkisai 施設園芸SaaS」に蓄積され、今後の栽培に活用される仕組みだ。 取材に対応いただいたスマートアグリカルチャー磐田の野口氏、伊藤氏ともに農業経験はなく、前職は富士通のエンジニアだという。「プロの農家の方のノウハウをもとに栽培データを蓄えて数値化している。農業はシステムエンジニアの仕事と親和性が高いと思う」と話す。 スマートアグリカルチャー磐田では、水耕葉物のほかに0.5haの土耕ハウスでサラダ用のケールを、また、1.2haのハウスではトマトを溶液養液栽培している。溶液養液栽培は、肥料の入った水を直接、ロックウール培地に注射して栽培するもので、ICT農業の先進国、オランダの手法を採用しているという。 最初に栽培を開始したケールはすでに出荷されてスーパー店頭などで販売されているが、葉物については2月以降、トマトは3月に初収穫し、順次出荷していく予定という。スマートアグリカルチャー磐田では、同社で作ったICT農法による野菜をブランド化していくことを計画している。今はケール、パクチー、クレソン、ホウレンソウ、トマトを栽培しているが、今後はさらに市場ニーズの高い野菜を生産してブランド化を進めるとともに、野菜の栽培データを蓄積してICT農業を地方から進めていくことを目指している。