J1およびJ2は開幕節を終えた直後の2月下旬から公式戦が中断されている。これまでに再開目標が3度設定されては見直され、現状では5月27日までに予定されていた公式戦がすべて延期。再開のめどに関して、Jリーグの村井チェアマンは15日の臨時理事会後にこう語っている。 「5月の連休明けから1カ月ぐらいの時間をかけて、要は6月に再開が可能なのか、7月になるのか、8月になるのか、あるいはもっと深いところになるのか。今日の段階で申し上げることができません」 　具体的な日付を示して再開目標が設定されていた時期に比べれば、選手たちは慌ただしいスパンでメンタルを練り上げ続けるストレスからは解放された。ただ、その分だけ身体のコンディションはシーズンを始動させる前の段階の、いわゆるゼロベースに戻ると言っていいだろう。 　例えば大分トリニータの片野坂知宏監督は、もう一度身体を作り直し、その上で戦術的なトレーニングを積んで再開へ向けてスタンバイするまでに「最低でも6週間は必要」と話している。6週間とはイコール、シーズンオフ明けの始動から開幕戦までに要してきた時間を指している。 　ただでさえ、再開後は水曜日、週末と週2試合を戦う過密スケジュールが待っている。中途半端なコンディション作りでは故障禍を招くことは必至なだけに、各クラブとも十分な準備期間を望むはずだ。つまり予定通りに緊急事態宣言が解除され、新型コロナウイルス感染を取り巻く状況が許せば、6月中旬から下旬あたりに再開目標が設定されることになる。

　もっとも、人類にとって未知の敵であるウイルスを、緊急事態宣言を発令しても思うようにコントロールできるとは限らない。しかし、国に先駆けて2月28日に緊急事態宣言を発令をした北海道では、2週間後の3月15日から24日間にわたって、新たな感染者数がすべて5人以下にとどまっている。 　村井チェアマンが日本野球機構（NPB）の斉藤惇コミッショナーに呼びかけて共同で設立した、新型コロナウイルス対策連絡会議が招いた3人の専門家チームの一人、愛知医科大学の三鴨廣繁教授（臨床感染症学）は北海道で実践されたトライをポジティブに評価していた。 「薬剤もワクチンもない状態で、密閉、密集、密接のいわゆる『三密』を避けることを中心に、国民へ行動範囲の自粛、行動変容を求めるしかないのが現実です。そのなかで政府が提言しているこの日本モデルを信じて実践し、感染がある程度収まった北海道という先例があると思っています」 　独自の緊急事態宣言を発令した段階で、都道府県別で最も多い感染者が確認されていた北海道は、一度は落ち着いたかに見えた。しかし、今月8日に新たに10人の感染者が確認されると、一転して13日を除いてすべて2桁で推移。専門家が指摘する感染の第二波が訪れたとして、12日に北海道・札幌市緊急共同宣言を発令し、16日夜には国による緊急事態宣言の対象地域となった。 　札幌市を中心とする北海道全体をホームタウンとする北海道コンサドーレ札幌も、独自の緊急事態宣言が解除された先月19日に鈴木知事が発した、「新型コロナウイルス感染症の危機克服へ向け、新たなステージに移行していきます」という宣言にクラブとして呼応。オフ明けの今月3日から再開した練習を、さまざまな感染予防対策を施した上でファンやサポーターに公開してきた。 　サッカーにおける日常の光景が戻ってきた、と思われた矢先に北海道・札幌市緊急共同宣言が発出された。事態を重く受け止めたコンサドーレも、13日の練習からファン・サポーターへの公開を自粛し、翌14日からはトップチームの活動そのものも停止している。 　5月6日で緊急事態宣言が解除されたとしても、北海道と同じような状況が起こるかもしれない。そもそも、予定通りに緊急事態宣言が解除される保証もない。政府が「最低7割、極力8割」の接触削減を呼びかけるなかで、クラブの活動休止状態が長引くほど、再開へ必要とされる調整時間も増える。 　緊急事態宣言が発令されている自治体とそうでない自治体が混在する状況になった場合、公式戦が初めて中断された直後は、村井チェアマンは無観客試合の開催もやむなし、というスタンスを取っていた。 　一転していま現在では、アウェイクラブの選手たちやスタッフが移動する際の感染リスクを無視できなくなったとして、無観客試合すら難しいとの認識が示されている。 　Jリーグはリーグ戦を成立させる条件として全試合数の75％以上、全クラブでの50％以上の試合消化を決めている。J1ならば前者が230試合、後者が17試合となる。56を数えるJクラブのうち、特別警戒都道府県に指定された13都道府県にJ1で13、J2で9、J3で3と実に25ものクラブが存在する事態を迎えたいま、公式戦再開へ向けた先行きはにわかに不透明さを増してきた。 （文責・藤江直人／スポーツライター）