『記憶にございません!』は2024年の今こそピッタリ? “初めから古い”三谷幸喜の普遍性
三谷幸喜作品は“同時代性”が薄いからこそ……
タイトルの『記憶にございません!』は、昭和51年(1976年)に起きたロッキード事件の国会証人喚問で証人として呼ばれた田中角栄の「刎頸の友」と呼ばれた小佐野賢治が発した言葉で、当時の流行語だ。 近年は「差し控えさせていただきます」と言って、都合の悪い答弁を拒否する政治家や官僚が多いが、その元祖とも言える言葉である。 この少し懐かしさを感じるタイトルの影響もあってか、公開当時はクラシカルな映画だと感じた。同じ年に劇場公開されて、加計学園問題をモデルとした事件を描いた内容が政権批判だと話題になった藤井道人監督の『新聞記者』と比べると、現実の政治情勢とは切り離されたコメディ映画として観客からは受け止められていたと感じる。 しかし、公開日が2019年の9月13日で、10月1日に消費税が10%に引き上げられる直前での劇場公開だったため、消費増税に怒る国民が劇中に登場した際には、映画館で激しく同意したことを今でも強く覚えている。 三谷作品はクラシカルな作風のため、同時代性は薄い。逆に言うと、初めから古いため、いつ観ても古びた感じがしない。 それはいつの時代でも成立する普遍性が存在するということだ。 実際、劇場公開時は当時の総理だった安倍晋三と黒田を重ねて観ていたが、2024年現在の視点で見ると、黒田の2.3%ほど極端な数字ではないものの、低支持率の中で政権を続けてきた現職の岸田文雄と重ねて観ることも可能だろう。 そんな岸田総理も自民党の次期総裁選に出馬せず退陣するすることを表明し、次の総理大臣となる新総裁を決める自由民主党総裁選挙を9月27日に控える中、テレビ放送される『記憶にございません!』は国民の目にどのように映るのか。 2024年9月に観るからこそ感じる、新たな発見があるのかもしれない。
成馬零一