認知症で意思疎通が困難…役立つケア技法「ユマニチュード」 ポイントは4つの“柱”
認知症の人とのコミュニケーションに役立つケア技法として、福岡市が普及に取り組む「ユマニチュード」。9月28日から2日間、日本ユマニチュード学会の福岡総会が同市で開かれた。認知症の人とその家族が生き生きと暮らせる街づくりには、困難になりがちなコミュニケーションのサポートが欠かせない－。そんな強いメッセージが多彩な講演やセッションから伝わってきた。 【写真】ユマニチュードの考案者イヴ・ジネストさん 「自治体とユマニチュード～社会的基盤としての実践」をテーマに掲げた総会は、同市中央区のあいれふホールを主会場に開かれた。市が共催で関わる異例の総会となった。 ユマニチュードはフランスの体育学の専門家2人が考案した技法で、「人間らしさを取り戻す」という意味を持つ造語。声をかける際は相手の正面に立ち、その視線をとらえる。触れる時は優しく下から。できるだけ立つ時間を設ける。「見る・話す・触れる・立つ」を四つの柱とし、こういった具体的で膨大な技法が体系化されている。 市の普及活動は2018年に始まり、学会認定インストラクターが医療介護などの専門職、認知症の家族介護者向けの講座などで講師を務め、市独自の地域リーダーが児童生徒、地域向け講座を担う仕組みが整っている。28日のセッション「地域におけるユマニチュードの効果」には学会認定チーフインストラクターの安武澄夫さん、地域リーダーの上坂美紀代さんが登壇した。 医療や介護の専門職が認知症に伴う意思疎通の困難に突き当たるケースは少なくない。「コミュニケーションを土台にして、その人らしくいてもらうために、どうしたらいいのか」。そんな悩みに対し、安武さんは「見ましょう。話しましょう。触れましょう。そして立つことを諦めませんというユマニチュードの技術」を伝えている。技術を知ることで、医療従事者の患者への共感度が上昇したという調査結果なども紹介した。一方、「生活の中に介護がある」家族介護者には、「帰って使えるコミュニケーションの技術を渡すこと」に力を入れている。 □ ■ 市ユマニチュード推進部によると、本年度に公民館や小学校で実施する市主催の講座には1万8千人の参加が見込まれるという。講師を務める地域リーダーの一人が上坂さん。受講した見守りサポーターや民生委員から近所へ、子どもから親へとユマニチュードの有効性が伝わり、地域に浸透していく実感があるという。「あなたのことを大切に思っています」という理念を踏まえたユマニチュードは、「家族や地域のコミュニケーションにも役立つ」とも語った。 高齢化の進展で認知症の人も増えていく。安武さんは「あらゆる人の手助けが必要になってくる。困っている方がいれば、こういう技法もあるよと伝えてください」と呼びかけた。 □ ■ 総会の運営に携わった市ユマニチュード推進部の笠井浩一部長は「全ての市民がケアに参加できる街を目指す。その方法としてユマニチュードの普及に取り組んでいる」と話す。 総会では、医療や介護の現場などで進む多彩な実践が報告された。認知症のコミュニケーション技法は、ほかにもある。市がユマニチュードを選び、普及に取り組む以上、有効性の検証結果と実績を今後も市民に伝える努力が欠かせない。 （特別編集委員・岩田直仁）
