【山口県】難病治療薬の新ラインが稼働 武田薬品光工場から世界の患者へ
山口県光市光井武田の武田薬品工業㈱光工場が1月末から、潰瘍性大腸炎などの治療薬Entyvio(日本製品名エンタイビオ)の新製造ラインを稼働させた。投資額は70億円で同の市民税収入額に匹敵。難病に苦しむ世界の患者に、光市から安定的に治療薬を届けていく。 エンタイビオは79の国や地域で販売実績があり、同社の2023年3月期決算では売上高4兆円のうち7千億円を占めるトップ製品となっている。 厚労省の指定難病で故安倍晋三元首相が患っていた潰瘍性大腸炎やクローン病など、腸の粘膜がただれたり、えぐれたりする「炎症性腸疾患」の薬として、全世界でこれまで130万人の治療に貢献している。国内の推定患者数は29万人ほどとされる。 構内の建屋、F36棟の3階に新設した製造ラインは、薬液調整から検査までの工程を担う。入室には顔認証システムを取り入れセキュリティを徹底した。 注射剤であるエンタイビオは菌や異物に対し、より厳密な管理が必須。薬液をろ過、滅菌するためのシリコンチューブなどは1回で使い捨てる「シングルユース」とした。
感染源の「人」を隔離
製剤工程で最大の汚染源である「人」を隔離するため、無菌状態の密閉した「箱」に相当するライン中で、瓶への充てん、薬液の凍結乾燥を実施する「アイソレータ」システムを確立。無菌性の保証を向上させた。手動によるライン内の調整などは、「箱」に固定された手袋に外から手を入れて行う。 新ラインに携わる社員は、AR(拡張現実)やVR(仮想現実)のゴーグルを使って事前に作業トレーニングを実践。無菌環境での機器取り付けなどで要求される手順、動作を訓練することで、厳格な品質要求を満たす製品の製造を実現した。製造記録の電子化、集約したビッグデータ分析など、最新のデジタル技術を活用している。 光工場では2018年からエンタイビオを出荷しているが、同工場ステライルマニュファクチャリング部長の髙橋武さん(42)は「今回の新ライン稼働で製造能力は3倍以上となる」と説明する。これまでの外部への製造委託分を内製化することで、品質保証の一層の向上も図る。 同部バイアル製剤グループマネージャーの菰口(こもぐち)晃平さん(31)は「より多くの患者のための生産能力増大、無菌性保証のさらなる向上で、当社最重要拠点としての光工場の位置付けが一層強くなった。今後も光市からのグローバル展開を進めていきたい」と話した。