ここにきて圧倒的に性能が上がっている「自動翻訳機」は海外旅行で本当に使えるのか、その答え
AI翻訳も人間には勝てない?
旅行に持って行けば便利この上ないが、ビジネス会話に使うには若干力不足。特にラフな会話では通訳が追いつかない。これはスマホ用の通訳アプリも同等で、こちらはスタンダップコメディの早いテンポのセリフは聞き取れなかった(スマホのスペックによるので、最新機種なら大丈夫かもしれない)。 ニュースのようなカッチリしたしゃべり方の場合はきれいに通訳するが、個人の動画を通訳させると、しゃべり手がひとりの場合でも拾えない場合があり、しゃべるペースが変わったり、途中で文章を切られると通訳が難しいようだ。 AIを利用した会議用の通訳ソフトがエヌ・ティ・ティ・アドバンステクノロジ株式会社やquintet株式会社などから発売されている。こちらは通訳ソフトではないため、文字のみでのやり取りになるが(言語により発話も可能)、かなり面倒な会話文も翻訳できる。長文に対応しているし、複数の話者を識別して翻訳できるので、会議の席でも使える。 総務省ではインバウンドビジネスや外国人労働者の増加に対応するため、自治体を中心に多言語音声翻訳サービスの活用を進めている。 役所に行くと窓口で外国人相手に四苦八苦していることがよくある。アジア系の場合、英語がしゃべれないことも多く、話がまるで進まないのだ。では通訳を雇えばいいかと言えば、外国人労働者の場合、通訳者が入るとセンシティブな内容になった時に相談しにくい。 コスト面からも多言語対応という点からも、精度の高い翻訳サービスの利用が最適解なのだ。 AIによる通訳・翻訳がこのまま進めば、早々に語学の勉強はいらなくなるのだろうか? 翻訳の分野では、学術関連の翻訳にはAI翻訳が利用され、AIで下訳をさせてものを成型する形が一般的になりつつある。この場合の翻訳家はポストエディターと呼ばれ、AI翻訳と共存する形になっている。 しかし文学やシナリオなどキャラクターが立っている作品では、AIもあまり役に立たない。これは通訳も同じで、学術会議や記者会見のようなシーンでは使えるだろうが、一般的な会話は難易度が高い。 語学が不要になるのは、当分先だろう。テープから文字起こしを行うアプリが、まだそのままでは使えないのと同じレベルで、翻訳・通訳ソフトの利用範囲は限定される。
川口 友万(サイエンスライター)