二松学舎大付のエース布施 成長の原点のある一言 選抜高校野球
第94回選抜高校野球大会に出場する二松学舎大付(東京)のエース左腕、布施東海(とうかい、3年)には成長する「原点」となった一言がある。プロ野球の横浜(現DeNA)で2度の首位打者に輝いた鈴木尚典・DeNA打撃コーチ(49)からもらった言葉だ。布施が小学6年時に選ばれたジュニアチームで、鈴木コーチが監督を務めていた。6年前の冬、打たれて自信を失った布施が励まされたメッセージとは――。 ◇「悔しすぎて覚えていない」 プロ野球12球団が小学5、6年生を選抜し、日本一を争う「NPBジュニアトーナメント」。布施は2016年秋、そのトーナメントに参加するDeNAジュニアチームのメンバーに選ばれた。当時、DeNAジュニアの監督だったのが鈴木コーチで、布施は12月の大会本番までの約3カ月間、指導を受けた。 DeNAジュニアには約600人の応募があり、選ばれた18人は「エリート」的な存在だ。布施も元々の所属チームでは突出した存在で「試合では大体、三振は取れるし、ホームランも打てた。自分に自信があった」と振り返る。だが、DeNAジュニアでは「全然ダメ。どこに投げても打たれた」。エリートの高い壁に阻まれ、一気に自信を失った。 大会本番でDeNAジュニアは勝ち上がり、初優勝を果たした。だが、投手層が厚く、布施がマウンドに上がることはなかった。出番は「代打の1度だけ」だった。 布施は「悔しすぎて覚えていない」と語る。ただ、鈴木コーチらに掛けられた言葉は今も心に刻まれている。「お前はまだ、ここじゃないぞ。まだまだここが終わりじゃない」 布施は中学で硬式の世田谷南ボーイズに入り、甲子園で躍動する左投手たちをテレビで見て憧れた。進学先に選んだのが二松学舎大付。現役時代に左腕エースとして甲子園で準優勝した市原勝人監督(57)のような「かっこいい投手になりたい」と考えた。 市原監督の指導を受けてカーブを磨き、緩急をつけた投球術で頭角を現した。2年夏の甲子園でベンチ入りし、新チームでは念願のエースとなり、昨秋の東京大会で準優勝を果たした。布施は6年前の悔しい経験を、今は冷静に振り返る。「それまでは本当にてんぐになっていた。逆にいい経験だった」 ◇「甲子園で投げるだけで僕は感動する」 一方、鈴木コーチにとっても、布施は忘れられない存在だ。布施の兄がDeNAジュニアでエースとして活躍したため、鈴木コーチは兄の背中を見て入ってきた弟にも期待していた。「すごく真面目で一生懸命。所属チームと活動が掛け持ちになるが、その中でも相当、練習していた」。レベルの高さに圧倒されながらも、コツコツと練習を重ねた姿を鮮明に覚えている。 鈴木コーチは「NPBジュニアトーナメント」での後悔の念が今も残っているという。「東海をマウンドで投げさせることができなかった。すごく申し訳ない気持ち」。だからこそ、大会の閉会式が終わった後、「野球の道はまだまだ続いていく。本来はもっとすごい投手になる可能性を秘めているんだから、中学、高校で野球を続けて頑張っていけよ」と励ました。 鈴木コーチにとって教え子はみんな、いつになっても気になる。布施についても「去年の夏に甲子園に出たことも、秋の大会の最後の最後で逆転サヨナラ負けしたことも知っている」。1月28日の選考委員会も二松学舎大付が選出されるか心配だったという。「小学6年の時は残念だったけど、今度は背番号1をつけて甲子園のマウンドに上がってもらいたい。東海が甲子園のマウンドで投げている姿を見ただけで、僕は感動すると思う」【中村有花】 ◇全31試合をライブ中継 公式サイト「センバツLIVE!」(https://mainichi.jp/koshien/senbatsu/2022)では大会期間中、全31試合を動画中継します。また、「スポーツナビ」(https://baseball.yahoo.co.jp/hsb_spring/)でも展開します。