【書評】ロバと一緒に3500kmの歩き旅? 旅の本屋さんが選ぶ「今すぐ冒険に出たくなる本 vol.09」『ロバのスーコと旅をする』
旅の本屋「のまど」の店長が、店頭に並ぶ本のなかから、外にでかけてみたくなるキャンプ・アウトドア好きのための本を選びます。今回は、ロバと一緒に3500kmを歩いて旅した方のお話をご紹介。著者はロバとの長い長い旅の中で、一体何を感じたのでしょうか。 【写真】3500kmを走破したロバとの歩き旅を見る(全10枚)
「ロバと歩いて旅がしたい」その想いで会社をやめる
本書は、モロッコで働くロバを間近に見たことで、ロバに荷物をのせて歩いて旅をしたいと思い、新聞記者の職を辞した著者の物語。イランで2頭のロバと、トルコでソロツベと、モロッコでスーコというロバの相棒とともに3500kmを歩いて旅をし、その中で経験した出会いや別れ、葛藤などを記録した旅行記です。 「動物と一緒に旅をする」と聞くと、皆さんはどんな旅を想像するでしょうか? 個人的には、動物と旅をする物語だと、『西遊記』や『母を訪ねて三千里』、『桃太郎』あたりが思い浮かびます。ただ、これらの旅はどれもフィクションですから、現実に動物と一緒に世界を徒歩で旅したという旅行記はいまだかつて読んだことがないかもしれません。そういう意味でも、本書は非常に貴重な旅の本ということになります。 しかもその動物というのが、日本ではあまり身近ではない〝ロバ〟なのですから、その時点で「一体どんな旅だったのかな」と凄く興味をそそられました。 そもそも著者は、どうしてロバと旅をしようと思ったのでしょうか? きっかけは、2016年にスペインのサンティアゴ巡礼路800kmを徒歩で旅したことだったのだとか。その時の旅で「歩けばどこにでも行ける」という感覚を手に入れたそうで、その後に訪れたモロッコで荷物を運ぶロバを見て、「ロバに荷物をのせたら、それこそどこまでも行ける」と考えました。そして2018年に実際にモロッコでロバを1万円で購入して、二カ月かけて1500kmを歩いたことで、ロバとの旅に魅了されたのだとか。帰国後、会社勤めを始めたにも関わらず、半年後には「ロバと旅がしたい」と辞表を提出してるのですから、それこそロバとの旅を渇望していたのでしょう。