【家族の絆を紡ぐ映画】暴力と隣り合わせに生きる市井の人々の日常
子から親となったり、新たに別の家族の一員になったりと、家族の中での自分の立ち位置は、変わっていくものだ。当事者になって初めて理解できることもあれば、時代の変化により新しい家族の形が生まれることも。しかしいつの時代もそこにあるのは、愛による強い絆だ。今回は、子どもから見た家族の姿を描いた作品をピックアップ。改めて家族の絆を感じられる作品を鑑賞して心を温め、家族への愛、家族からもらった愛を再確認してみてはいかがだろう 【写真】家族の絆を紡ぐ映画3選
故郷への郷愁や家族との思い出をみずみずしく描く──『ベルファスト』
バディはベルファストに住む9歳の少年。両親と兄、近所に住む祖父母とともに、毎日を楽しく過ごしていた。 しかし1969年8月15日、突然暴動が勃発し、穏やかで平和だったバディの世界は瞬く間に荒れた世界へと変わってしまう。住民皆が顔なじみで、まるで一つの家族のようだったベルファストの街は、この日を堺に分断されていく。 暴力と隣り合わせの日々を過ごすバディ一家の内部でもさまざまな事件が起き、故郷を離れるかどうかの決断を迫られることになる。
本作は第94回アカデミー賞®で脚本賞を受賞し、作品賞など7部門にノミネートされた。バディを演じたのは本作が長編映画デビューで北アイルランド出身のジュード・ヒル。母親はアイルランド・ダブリン生まれ、『フォードVSフェラーリ』のカトリーナ・バルフが演じた
本作は、ベルファスト出身のケネス・ブラナーが制作・監督・脚本を手掛けた自叙伝的作品だ。彼の愛した街や愛した人たちのほとんどを、アイルランド出身の実力派俳優たちが演じ、ベルファスト出身のヴァン・モリソンの楽曲や1960年代のイギリスのポップソングが迫力ある演技に華を添える。 バディの視線によって描かれるベルファストで生きる市井の人々の悲喜こもごもが、モノクロ映像ながら実に鮮やかで生き生きとしていることに驚かされる。色を廃した映像は光と影が強調され、その表情は力強くノスタルジックに観客に訴えかける。 暴動やアイルランドなどと聞くと、自分ごととは感じられないかもしれないが、本作はどんな立場や境遇の人にも寄り添ってくれる作品ではないかと思う。家族を危険な場所に残し、単身ロンドンで仕事をしなければならない父や、家族を守らなければならない母、孫のことが可愛くてしょうがない祖母、妻のことを出逢った頃のように愛する祖父など、ありふれたどこにでもある光景があまりにもみずみずしく、性別や年齢を超越して自分自身を彼らに投影させ、気づくとまるでバディ一家の一員になったかのように物語に没入してしまうのだ。 紛争によって故郷を離れなければならなかった人たちの苦しみ、愛する家族や友人と離れ離れにならざるを得なかった者たちの悲しみが終盤にかけて描かれ、心が締め付けられる。そして今、世界中に同じような境遇の人々がたくさんいることを思い出すだろう。 『ベルファスト』 Blu-ray: 2,075 円 (税込) / DVD: 1,572 円 (税込) 発売元: NBCユニバーサル・エンターテイメント NETFLIXでもデジタル配信中 BY KANA ENDO