【記者ルポ】復旧道半ば、住民疲労色濃く 倒れた家屋、崩れた神社の石灯籠… 能登地震1カ月 石川県穴水町
元日夕刻の激震から1カ月が近づく。金沢市は日常が戻りつつある一方、「奥能登地方」と呼ばれる穴水町には厳しい状況に耐える人々の姿があった。 金沢から車で北に向かうと、見晴らしの良い海岸線に出た。風景は1時間半ほどで一変する。ところどころが陥没した路面を、救援車両が行き交う。沿道にはブルーシートで屋根を覆う建物が増えた。奥能登の玄関口とされる穴水町に入ると、倒れた家屋や崩れた神社の石灯籠、広範囲に崩れた崖など被害の深刻さを示す光景が広がっていた。 江戸時代は北前船の往来で栄えた土地だけに、歴史を感じる建造物が続く。ただ、1階がつぶれた家屋が至る所に点在。町内31カ所の避難所に人口約7300人の1割を超える936人が身を寄せ、全国から支援物資が集まる。町によると、電気は約8割の世帯で復旧した。一方、断水は約7割の地域で解消されていない。 復旧道半ばの不自由な生活に、通りを歩く人の表情には疲労の色が濃く映る。「避難所と自宅を行き来する毎日だよ」「本当に復興できるのだろうか」との悲痛な声が漏れる。
半世紀近く穴水町で暮らしているパート従業員脇山正博さん(70)は家族や自宅は無事だったが、近所や知り合いの多くの住まいが全壊した。「町がこんな無残な姿になるなんて、思ってもいなかった」と涙ぐんだ。不慣れな避難所暮らしに耐えかね、傷んだわが家に戻る人もいるという。 商店街の一角に営業中の美容院があった。店主の女性(63)は水道の復旧を待って先週末に店を開けた。入浴機会さえ限られる住民に「少しでもさっぱりしてほしい」との一念で動いたという。「営業時間は短いけれども、明かりを見ればホッとするでしょう」。気丈な口調とたくましい笑顔に、被災地にわずかな光が差しつつあると感じた。